仮称“Gサーキット・プロジェクト”を数回開催して、具体的な回路構成が次第に固まってきた。
バランス増幅回路でありながら、当時の使用環境を考慮すると、以下の条件が必要であった。
この新回路の目的は、スピーカーを最適ドライブするために、完全なプッシュプル、今で言うフルブリッジ方式を実現することであった。パワー段のフルブリッジ動作だけであったなら、モノアンプ2台によるブリッジ接続すれば、実現できる。
しかし、そのためには、アンプは相互に逆位相関係にあるオーディオ信号をアンバランス増幅して、2台のアンプの出力でバランス動作させる方式であるから、それはそれで、効果は十分あるが、もっと、理想的なバランス増幅を含んだアンプ回路の実現を目指していた。折角のダイアモンド差動回路出力からの2組のバランス出力の半分を遊ばしておくのは、何としても、不充分なように感じていた。(もっとも、現在の通常アンプも初段こそ差動回路でバランス入力を受け入れる能力を持っているが、2段目の差動回路以後、アンバランス増幅になって、シングルエンド出力になってしまっている。)
ダイアモンド差動回路を採用したSANSUIアンプは3段差動増幅回路と言えるので、2段目のダイアモンド差動回路から、3段目の差動プッシュプルにバランス回路で導くのが難しそうだった。
そうこうして、プロジェクトチームで検討を続けているうちに、技術研究所より、レポートが上がってきた。これを見て、私は、“やった!”と思った。上司も“バランスアンプのアイディアが実現しそうだ。”と喜んで、いろいろと社内を動かすようにサポートしてくれた。
具体的には、上記の3段目の差動プッシュプルを2組にして、以後、ダーリントン回路を通って、2組のパワーアンプ出力になる、すなわち、バランス出力になるものであった。アンプ出力段のDC電位を規制するため、特性改善のためにはフィードバックを掛ける必要があった。これまでのアンバランスフィードバックでは、このような効果は実現できない。当然、バランス・フィードバックを掛ける必要があった。
ひとつは従来のようにアンプのプラス(HOT)出力から、差動入力のマイナス(COLD)にかけるが、それだけでは、アンプ出力のDC電位は決まらない。そこで、アンプマイナス出力から、アンプ差動入力のプラス(HOT)側にもフィードバックを返す必要があった。そうなると、アンプのフィードバック形式は反転(インバート)アンプになる。
差動マイナス側(COLD)側は通常接地されるが、これをバランス入力に使うと、見事に反転アンプ方式によるバランス増幅アンプができたことになる。
上述したように3段目の差動プッシュプル回路のゲイン(DCを含め)は46dBくらいとれるから、DCドリフトが大きくなる心配があった。
実際、試作機では、バランス出力のホット/コールド間では、バランスフィードバックの効果によって、ドリフトは極小に抑えられて問題は無かった。しかし、アンプのグランド電位に対するアンプDC電位のコントロールはバランス・フィードバックでは充分ではなかった。DCゲインの大きい差動プッシュプル回路のDCゲインをコントロールすれば、充分実用になることが分かってきた。そこで、作動プッシュプルのDCゲインはエミッタ抵抗を微調整すれば実現できたので、ここに半固定ボリウムで調整することで、実用可能になった。製品化したあとでも、バランス出力の対グランド電位は1Vくらいになることもあったが、スピーカ端子間のDCドリフトは従来アンプと同様になったので、品質保証部門の問い合わせには、問題ないことを説明した。
Xバランス回路のユニークなポイントは電源回路にあった。この思想は私に考えには入っていなかった。むしろ、上司がトライしてくれた、電源回路のフローテイング(すなわちグランド・フローテング回路)にその原点があった。
Xバランス回路の電源回路は、電源トランスの中点がないフローテング回路になっているのだ。従って、整流用ケミコンは1個で済ませることができた。しかし、実際の製品では、1個のブロックケミコンでは、ユーザーさんに不安感を与えるので、LR2電源にして、2個のブロックケミコンを搭載するようにした。
まだ、まだ、Xバランス開発のお話は続きます。
この頃、ベトナム戦争がアメリカの敗退となって、オーディオ各社のベトナム特需がなくなってきた頃であった。しかし、それから28年後の2008年は、またもアメリカの実体のないが動きで、日本は飛んだ目に会うことになっている。その乗り切り策はどこにあるのか。
2008年 12月14日掲載