【第37図】に示すように、STAXのイヤースピーカーの原理はシンプルです。
【第37図】STAXイヤースピーカー/ヘッドフォン/通常スピーカ バランスドライブアンプ“MASTERS SX-3000BD/SP CUSTOM”の主要ブロックダイアグラム
振動膜に高電圧のバイアスを掛けて、その両側の固定極からバランスオーディオ信号を掛ければ、中央の振動膜がリニアに振動します。
振動膜全体が振動する(ピストン振動)ので、高品位の音質が得られます。
ただし、振幅を広くとって大きな音を出そうとすると、バイアスは数千V必要となります。
また、振動膜は固定極にタッチするような事故が起こると、振動膜はスパークして、損傷する恐れがあり、そうなると振動膜の張り替えとなり、大変です。
したがって、通常スピーカータイプの静電型スピーカーは、QUADとマーチンローガンに限られます。
やはり、音量の小さいヘッドフォンタイプが適しているといえます。
高圧を取り扱う半導体アンプが、STAXが販売している専用ドライブアンプです。
かつて、STAXに在籍した中川伸(フェデリックス代表)さんが設計した回路が今なお原型となっているはずです。
差動入力、直結回路で、高耐圧(1000V以上)のトランジスタを採用して構成しています。
もう1種類、真空管6FQ7を採用したハイブリッドタイプも原則として、直結回路構成になっています。
STAXのイヤーSPは容量性ですのでパワーは必要ないですから、もっとシンプルな回路でも作れます。
QUADのコンデンサーSPが採用しているように、数千Vのバイアスを掛けて、コンデンサースピーカーの振動版を高電圧でドライブする方式です。
STAXのイヤーSPのバイアス電圧は590V程度となっていますから、真空管アンプの出力トランスでドライブすることが可能です。
通常の真空管アンプに採用されるプッシュプル出力トランスの2次側(ローインピーダンス側)に通常アンプの出力を接続すれば、ハイインピーダンス側にはSTAXイヤースピーカーをドライブできるオーディオ信号電圧が得られます。
具体的には、MASTERSの以下のようなアンプがあります。
プリメインアンプ“MASTERS AU-900XGシリーズ”
多用途プリメインアンプ“MASTERS AU-900XG/STAX/HP”で、STAXイヤースピーカーをドライブできます。
1次/2次インピーダンス比が大きければ、それだけ、大きなSTAXイヤースピーカーを大きな音量でドライブできます。
具体的には1次側は10kΩ程度が適切です。
プリメインアンプ“MASTERS AU-999シリーズ”
プリメインアンプ“MASTERS AU-999シリーズ”ですと、出力が大きい分、STAXイヤースピーカーをドライブできます。
フルバランス増幅パワーアンプ“MASTERS BA-999ZBGシリーズ”
フルバランス増幅パワーアンプ“MASTERS BA-999ZBGシリーズ”でも可能です。
トランスを付加して高圧バイアス回路もつけるとSTAXをドライブできます。
この方式はシンプルなだけに、優れたトランス(例えばスーパーパーマロイコアやファインメットコア)を採用すれば、さらに良質なサウンドが得られます。
同時に、ヘッドフォン出力はアンプ側から取り出すことができます。
真空管アンプをプレートチョーク負荷として、STAXイヤースピーカーをドライブする方式です。
この方式が、
STAXイヤースピーカ/ヘッドフォン/通常スピーカ バランスドライブアンプ“MASTERS SX-3000BDG/SPSX-3000”
に採用されている方式です。
まず、真空管アンプは入力バランス、出力バランスのバランス増幅アンプとなりますから、別の言い方をすれば、ダブルプッシュプルアンプということもできます。
この方式のメリットはスピーカーバランス増幅ができることです。
同時に、STAXイヤーSPは60dB近くのハイゲインを必要とするので、出力トランスの1次巻線をプレートチョークとして動作しています。
したがって、1次側の高電圧オーディオ信号を、コンデンサーを介してSTAXイヤーSPの固定極に接続すれば、振動板はバランス信号により振動し、音が出てきます。
真空管回路において、抵抗負荷、電圧増幅回路でも、STAXをドライブできますが、ゲインは大きくとれず、経験的に40dBくらいが限度だったようです。
もちろん、独立したプレートチョークとすれば、ゲインは60dB程度とれるようになります。いずれしても、STAXイヤーSP専用となり、スピーカーやヘッドフォンを動作させることは困難です。
これは、QUADスピーカー側に高圧バイアス回路と昇圧回路が付属しているので、100W程度のアンプを用意すれば容易に取り扱えます。
2021年 7月 6日掲載