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イシノラボ/マスターズ店長の連載

第1弾 日本オーディオ史

第39回 Xバランス回路をセパレートアンプに搭載する計画と事前検討 後編

パワーアンプの機種名の決定

パワーアンプの設計が進むに連れて、この機種名を決める必要がでてきた。

これまで、サンスイではパワーアンプはBA、コントロールアンプはCAとしてきた。パワーアンプのモデル名にはパワー300Wという意味をこめたかった。そうなると、マッキントッシュの決め方が合理的と思えてきた。MC−275にしても、ステレオで“2×75W”だから、“MC−275”としていた。

そこで、BA−2300としてみたが、次の改良型を考慮すると、BA−2301が良いと思った。改良型はBA−2302になるわけだ。その機種名を会議に提案してみた。

大筋、会議参加者は“それでよかろう”ということになった。しかし、会議の終わり頃になって、上司が“B−2301のほうが、精悍な響きがあって良いのでは!”と発言した。私は、“Bはヤマハが使っているので、どうかな?”と思った。しかし、アキュフェーズはP、パイオニアはMで、みな1文字である。このパワーアンプは新規一転のモデルであるからBでも良いと思った。機種名の決め方はあまり理屈をこねても仕方ないので、売れそうな、ブランドイメージにふさわしいものが良いので、“B−2301”で決定となった。

   
金型費・開発費の捻出

38回で述べたように、金型費は、Nさんの頑張りにより、ユニークな構造となって、かなり削減できた。それでも、この頃は、サンスイの経営は少しづつ、厳しくなってきていた。この1機種だけで、本当に採算が取れるのか?という質問を上層部から言われると、“発売してみなければ、分からない?”では製品開発は進まない。そこで、どこの会社でもやることであろうが、同じような格好で下位機種を作って、予測売上金額を増す方法を採用した。

それならば、パワーを落として、200Wx2のパワーアンプを急遽開発しようということになった。同じ外観・構造で、パワーダウンすることは難しくない。ここで、B−2201が誕生することになった。振り返ってみれば、サンスイではAU−999に対してAU−888、AU−9500に対してAU−8500と、そのような手法が繰り返されている。

試作機の検討の開始

これまでの検討と関係方面への働きかけで、B−2301,2201の開発・製品化は決定となった。このパワーアンプから、電気設計のベテランのY氏が設計主任担当になったので、仕事は非常にやり易くなった。また、Y氏も充分に腕を振るえるような環境になって、大変な精力で仕事を進める元気さであった。レイアウトは、オーソドックスに中央に大型トランスを設置することにした。トランスはEIトランスの採用も考えたが、とても大型になってしまうので、トロイダルトランスを大型ケースに収めた。トロイダルトランスはアキュフェーズやDENONも作って貰っている日本捲線(株)に依頼した。当時、日本捲線の技術責任者はサンスイOBのI氏であったので、こちらのリクエストは充分すぎるほど伝えることができた。

回路構成は前回に述べた通りで、今回は部品の選定をどうするかになった。

採用部品のオファーと検討

サンスイとして、久しぶりの高級パワーアンプとなると、採用する部品も音質的に良好なものを採用したいと思うのは自然であった。私自身は、部品の音質についてはさんざんこれまでのプリメインアンプでやってきて、部品の音質に頼り過ぎたり、のめりこんだりしたら、オーディオ技術から外れると危惧していた。また、いわゆる音質部品を採用するとなると、アンプの製造原価がアップするので、ほどほどにしたいのが本音であった。

当時は、音質部品に関わる外部権威の方もいらして、また、部品メーカーも試聴室を作ったり、JBL4343を買い込んだりして熱心であった。それだけ、投資しても、それだけの売上があったのだろうが、オーディオが下り坂になると、これらの動きは止まって、消滅してしまったのは悲しいことである。

抵抗

以前から、サンスイアンプの上級機種の回路重要部にはリケンのRM抵抗を採用していた。(残念なことに、リケン抵抗は既に廃業してしまい、存在しない。)RM抵抗はカーボン抵抗を樹脂で固めた構造であるらしく、過熱すると黒煙を上げて燃えるので、安全規格で規定される部分には採用できない。

B−2301/2201には上記の部分を除いて全面的に採用することとなった。RM抵抗は当時、秋葉で@¥80であった。メーカーは大量(数千以上の注文)にオーダーするので¥20程度であったが、通常のカーボン抵抗は@¥1以下であったから、コストアップは少額ではなかった。このRM抵抗は古くから、BTS関係機器にも採用され、その信頼性は高かった。通常のカーボン抵抗はリード線付けのかしめの材質が鉄であったので、これが良くないという方もいた。どうして、鉄はいけないか?という話になって、社内の部品検討グループでは超ひずみ測定器を購入して、鉄口金の抵抗は−140dBレベルのひずみがあると解明してくれた。このひずみレベルは0.1%のさらに1/3000になるから、聴感上は問題ないと思う。そこで、口金を真鍮にするという抵抗メーカーが現れ採用した時期もあった。抵抗は発熱すると、真鍮の熱膨張により、口金の接触が緩むという現象もあり、その後、下火になった。上記のRM抵抗は改良を加え、RMA抵抗となり、最後は金メッキしたリード線をつけたRMG抵抗にまで進化した。

さすがに、オーディオメーカーはそこまでついていくことができず、一部のNFB抵抗どまりであったように記憶している。RM抵抗は、音質的には柔和で、とくに癖がなかったように感じた。ちなみに、海外メーカーではカーボン抵抗はあまり採用せず、金属皮膜抵抗の採用が多い。現在でも抵抗に拘る方がおられる。それ自体は悪いことではないが、アンプの全体バランスを考えてお使いなるのが賢明と思う。一部、超高価な抵抗を負荷抵抗等に使うと劇的にサウンド品位が向上するというお話も聴くが、オーディオが趣味である限り、それは構わないと思う。個人的には、それほどの変化はなく、たくさん使えば、それなりに音質が変化してくるのを聴き取れる程度という認識である。

現在でも半導体アンプのパワー出力段でのエミッター抵抗でサウンドが相当変化すると言う考えがあり、この抵抗を除去するために、回路安定度に工夫を凝らして、それをセールスポイントにしているパワーアンプもある。私は、それよりも、この抵抗の存在でパワーロスとか、アンプのオープンループの内部抵抗が下がらないのが気になるほうである。

B−2301/2201では、通常のセメント抵抗を採用しようとしたが、銅箔を採用したΛ抵抗が開発されたというオファーがあり、この抵抗は高価で大型であったが、使用数も少ないので採用することにした。Λ抵抗は、かなり以前に生産終了となった。

一方、電源部の安全規格のショート試験をおこなう回路部分は不燃抵抗の使用が必要だが、依然として酸化金属抵抗が主力であり、特に進歩・改善の話は聞かない。海外製アンプは金属皮膜抵抗の採用が多い。

コンデンサ

フィルムコンはこれまで、スチコンを採用してきた。このアンプには今回はブチルゴム巻のスチコンを採用した。フィルムコンがオーディオ信号で振動することは一般的に知られているが、その程度はかなり激しいと思われる。これは、近年、STAXのイヤーSP用アンプを製作し、イヤーSPが容量性(100p〜300pくらいか?)であり、簡単に音がでることには驚いた。クーロンの静電気の法則を思い知らされる。

1μ程度のコンデンサには、高音質と言われたΛコンを採用した。当時は最高と言われていたので、採用することでアンプの商品力を高めることにもなった。ケミコンは、ニッケミが熱心に開発したAWAと称するものを採用した。AWAは後にAWDという品種に改良された。さらに、プリドライブ段には電源強化用に、日立コンの470/63Vを8個/ch採用した。

このようにしたのは、外部からのオファーもあったし、私自身が聴いてみても感じが良かった。良かったというのは正確ではなく、この機種としてふさわしい、売れそうなサウンド傾向になったと感じということである。

当時は、相変わらず、サンスイアンプのイメージはジャズ向きと言われていたが、このアンプでは、少しクラシック音楽でも対応できるようにしたかった。ブロックケミコンは、容量の割りに安く、サウンド的にもいろいろ検討してくれた日立コンを採用した。日立コンはオーディオが下火になった頃には、ケミコンは採算が取れず撤退している。

オーディオクラフトマニアとしては、コンデンサを交換してそのサウンドの違いを楽しむことは今でもできるが、かつてほどの製品がなく、やや寂しい。

メーカーのエンジニアとしては、部品の選択におぼれてはいけないし、軽視してはいけない。このあたりのバランス感覚が重要だ。部品のことばかりに拘ると、“チェンジニア”と言われかねない。アンプの設計は、サーキット,レイアウト,パーツの調和をうまくとって、そのブランドを買い求める方々に“おいしいサウンド”を提供することが重要と思う。

プリント基板

プリント基板の銅箔厚は35ミクロンが標準である。但し、近年の両面基板では18μが標準となって、薄くなっている。

半導体アンプでは、真空管アンプに比べて回路が複雑になるし、部品のサイズも小さくなるので、プリント基板をベースに設計することは避けられない。35μの銅箔厚さにおいて、どの程度の電流容量を設定するか、メーカーによっていろいろな考え方があろうが、1mm幅において1Aあたりであろう。しかし、大電流に変動するところなどはできるだけパターン幅はとっておくことが必要であろう。

負荷ショート試験等では、パターンが焼きちぎれることはよくあることである。B−23101/2201では、バターンの厚さは倍の70μを採用することにした。東芝/AUREXのアンプでは140μ厚のパターンを採用したこともあったが、ハイパワーアンプでは70μで充分と思うし、必要なところはパターンをやめて、ケーブルにすれば良いからだ。

半導体の選択

1980年代になると、TO−3タイプの製造は終了して、TO−3Pの樹脂モールドタイプに代わっていた。ビス1個で取り付けられるし、プリントパターンとも直結できる。それにコストが安くなり、TO−3に戻ることはなくなってしまった。

このアンプでは、どうすべきか?市中在庫を探せば、TO−3もないことはなかったが、今後のことを考慮すると樹脂パッケージにせざるを得なかった。また、なるべくパラレル数を減らすために、電流容量がとれるものが良かった。スーパー・フィードフォワード時に採用した大型TO−200型トランジスタが適切と判断した。このタイプはサンケンが製品化したもので、TO−3Pの2倍の幅があり、ビス2本止めであり、トランジスタの振動防止にも有効であった。また、サンケンは高周波特性が改善されたマルチエミッタタイプ(LAPT)を製品化してくれていたので、躊躇なく採用できた。TO−200タイプは、その大きさから、ペレットが大きく、電流容量が大きく取れ、頼りになる性能と思えた。

ドライバートランジスタの心配

コレクタ損失1Wくらいで高周波特性が良好なトランジスタは、当時でも意外に少なかった。サンスイでは、富士通の2SC1904/2SA898を採用してきた。このトランジスタは性能がすぐれていて気に入っていた。ところが、近い将来、富士通はトランジスタ製造事業から撤退するという情報が入った。これに代わるトランジスタを探しまくったが代わるものはなく、仕方なく、このトランジスタが廃番になったら東芝の2SC2705/2SA1145を使うしかなかった。

富士通のトランジスタが廃番になったあとは東芝を使うしかなかった。以後のアンプには他のブランドも、また、マスターズのアンプもそうなるしかなかった。

オーディオ用半導体パーツの廃番の傾向の強まり

このような経過をたどって、パワーアンプが開発されてきた。試作品ができがってからのお話を記しおく。

近年、どんどん、トランジスタが廃番になっているので、今後は、市中在庫をある程度買って、在庫しておく必要がある。

一方、真空管はなくならず、この現象はエレキ楽器の存在にある。楽器産業のほうがハイエンド・オーディオ産業よりはるかに巨大なのである。

次回は少し、話題を変えて、JBLスピーカとサンスイ、JBLを愛した方達のお話をしようと思っています。


2009年11月18日掲載


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