イシノラボ/マスターズ店長の連載
第2弾 オーディオアンプ講座
第3章 電源部 - 整流方式
商用電源をオーディオアンプの電源として使用するときは、交流からオーディオ用直流電源を変換する回路が必須となります。
センタータップ式整流
【第4図】に示すように、古くから真空管アンプの整流管整流に採用されていた方式です。全波整流管を半導体ダイオードに置き換えれば、ヒーター電力も要らず、小型、低内部抵抗、長寿命と、真空管アンプの電源部に現在でも広く採用されております。
この方式の問題点を挙げるとしたら、電源トランスのセンタータップとアンプのグランドが直結されるので、電源トランスの巻線電流とアンプのリターン電流とで、相互に影響されると言うことです。
【第5図】に示すのは、±2電源を必要とする半導体アンプに99.9%以上、採用されている、±2電源センタータップ式整流方式です。電源トランスの容量をフルに利用するかたちになるので、電源トランスの選定には配慮が必要です。
この方式は、これまで、何の疑問もなく採用されている方式で、私は、1970年代、サンスイプリメインアンプ開発時のある方の指摘により、音質上有害なポイントがありそうだと長らく思っていましたが、ようやく今年になって、電流プローブを使用して、その混変調電流ひずみの発見に至りました。
(詳細は「店長のブログ:新開発“Xカレント回路”とは!(詳細説明)」で述べております。)
センタータップがある限り、問題点の根本的解決は無理で、かつて、サンスイFシリーズ(607/707)プリメインアンプに採用したように、センタータップとアンプのアースとを10Ω程度の抵抗を挿入して、混変調現象を改良することでした。
だからと言って、この方式をまったく否定することは致しません。99.9%の半導体アンプに採用され、多くのオーディオファンが楽しんでいるのですから。
ブリッジ整流方式
【第6図】に示すように、2個1組のダイオードが交互導通して、整流をおこなう方式で、ダイオードの数が4個必要なので、整流管による整流はアルテック1570Bしか採用例は見ないです。半導体ダイオード登場に際しても、ブリッジ整流採用は真空管アンプでは少ないようです。半導体アンプでは、2電源をつくりだす必要があるので、ダイオード数が増えるブリッジ整流方式はほとんど見かけないですが、2組のダイオードを組み合わせれば(ダブルブリッジ整流と呼ぶことにします)、電源トランスのセンタータップは必要としません(【第7図】参照)。
この具体例として、1970年代、サンスイAU-907Fは【第8図】に示すように2組のブリッジダイオードを用いて、L/R別電源として、16個のダイオードを使って、実現したアンプさせたアンプがありました。
(不肖、私が強く主張して、採用された経緯があります。)
【第8図】AU-D907Fに採用された整流回路(パワーステージ)
昨今では、マランツのプリメインアンプにブリッジ方式が採用された例があります(【第9図】参照:2004年、MJ誌より掲載)。
このような方式にすれば、電源トランス巻線とアンプ電源部アースとは、直結されることなく、少なくとも、グランドに関する混変調ひずみの問題がない筈と思います。但し、コンデンサには整流交流成分とアンプからのリターン電流がミックスして流れます。
少なくとも、普通(ハーフブリッジ)のアンプではそうせざるをえないかと思われます。
最近、開発したXカレント電源回路では、整流用コンデンサとアンプリターン電流用コンデンサとを分離する方法は有効かと自分なりに信じております。(次回、取り挙げます。)
【第9図】2008年、マランツプリメインアンプに採用されたダブルブリッジ整流方式
結局、理想的な整流とアンプとのインターフェースは、【第10図】に示すように、ブリッジ整流とバランス増幅(フルブリッジ)アンプの組み合わせです。バランスアンプですと、絶対に、アンプ~スピーカー~アンプにしか、オーディオ信号は流れないので、上記に記述した問題点が払拭されます。サンスイのXバランス回路アンプの電源部はこのような構成です。勿論、プリドライブ段は別電源で構成されています。(サンスイはこの回路を20余年継続して終焉しました。)
ちなみに、アドバンストZバランス回路は、このような電源回路構成を採用しています。
【第10図】バランス増幅(フルブリッジ)アンプへの電源供給(パワーステージ)
但し、パワーアンプドライブ段はグランド(増幅基準)をとる。
2014年12月 6日掲載
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