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イシノラボ/マスターズ店長の連載

第2弾 オーディオアンプ講座

第10章 オーディオ回路におけるバランス

バランス伝送

今から100年以上前にトランスを使っておこなわれました。

トランスバランス方式

バランス600Ω伝送が標準となりました(アメリカのウエスタン・エレクトリックの電話回線が基準となりました)。
これをトランスバランス伝送と言います(【第24図】参照)。

【第24図】バランス伝送の基本回路
【第24図】バランス伝送の基本回路

この伝送方式は、伝送路線に発生しやすい外部からの誘導ノイズに対して、相互に逆位相の信号を送ることになるので、発生しても、逆位相のため、ノイズが打ち消されるからです。
従って、近年、問題となる電磁波ノイズも発生しにくいはずです。
特に、電話回線は小電力伝送なので、トランスバランス伝送において、送り出し側と受け取り側とはインピーダンスを同じ(インピーダンスマッチング)にすることが最大電力(最小ロス)にすることにおいて重要なことでした。

電子式バランス伝送方式

半導体アンプが発展して、とりわけ、安価・小型のOPアンプが普及するようになるとトランスよりも優位となり、半導体アンプで送り出し、受けが常識になってきました。
送り出し(低い出力インピーダンス)、受け側:(高い入力インピーダンス:通常10kΩ)、プロ業界では、ロー出し、ハイ受けと言います。
具体的な送り出し側の出力インピーダンスは、75Ω、150Ω、300Ω、600Ωくらいが良く採用される数値です(【第25図】参照)。

【第25図】電子回路によるバランス伝送
【第25図】電子回路によるバランス伝送

(注)グランドケーブルは必要で、3線式が標準:XLR端子が広く使われるようになった(グランドから浮いた(フロート)方式は別途記述します)。

(特別留意事項)いわゆるグランドフロート伝送:この方式は現在一般的ではありませんが、グランドラインを用意することなく、ホット/コールドの2線だけで、グランド(アース)ケーブルを用いることなく伝送する方式です。
通常、グランドラインがないと、伝送しようとすると誘導ノイズが信号に入り込むのではないかと言われてきました。
具体回路を【第26図】に示します。【第26図】から分かるように、送り出し側はグランドラインがなく、2線のみで伝送します。

【第26図】グランドフローティングバランス伝送の例
【第26図】グランドフローティングバランス伝送の例

受け側はZバランス増幅回路のように、そのまま、バランス増幅できる方式もあります(【第27図】参照)。

【第27図】グランドフローティングバランスラインからのアンバランス変換例
【第27図】グランドフローティングバランスラインからのアンバランス変換例

バランス増幅
バランス増幅

通常は、バランス伝送で入力された信号はいったんアンバランス信号に変換され、増幅されるのが普通です。
なぜなら、変換しないと2組(倍)のアンプが必要になるからです。

バランス増幅とは、アンバランス信号に変換することなく、そのまま2組のアンプを用意しておこなう方式です。

バランスに関係する用語の解説とその内容(パワーステージの増幅方式)
ハーフブリッジ

【第28図】、【第29図】に示すような電源と出力デバイスの関係になります。

【第28図】ピュアコンプリによるSEPP増幅回路(ハーフブリッジ)
【第28図】ピュアコンプリによるSEPP増幅回路(ハーフブリッジ)

【第29図】セミ・コンプリメンタリーSEPP増幅回路(ハーフブリッジ)
【第29図】セミ・コンプリメンタリーSEPP増幅回路(ハーフブリッジ)

グランド基準として、シングル出力で、増幅する。これまではSEPP(Single Ended Push-Pull)と呼ばれていました。
グランドデッド アンプファイ回路と解説される場合もあります(グランドを増幅基準点として増幅をおこなう)。

フルブリッジ

【第30図】に示すように、反対位相の2個(ダブルエンド)のパワーステージで増幅する方式です。

【第30図】フルブリッジ増幅回路
【第30図】フルブリッジ増幅回路

かつては日本ではBTLと呼ばれていました(海外ではそうは言わずブリッジ増幅と言われていました)。
基本的には、グランドを基準にして増幅するのが普通です。ちなみに各アンプの負荷抵抗は負荷の1/2になります(8Ω負荷なら、4Ω負荷を分担して、パワーは4倍になります)。
アンプ構成として、【第31図】に示すように、非反転アンプと反転アンプとを組み合わせる方法や、【第32図】に示すように、位相反転して2組の非反転アンプで構成する方法が一般的です。

【第31図】ブリッジ回路の増幅回路(非反転/反転回路構成)
【第31図】ブリッジ回路の増幅回路(非反転/反転回路構成)

【第32図】反転回路によるフルブリッジバランス増幅回路
【第32図】反転回路によるフルブリッジバランス増幅回路

もちろん、入力トランスを用いて行う方法もあります。

フロートバランス増幅

いわゆるグランドに関係なく、ホット/コールドの2線だけで増幅する方式で、古くは山水Xバランス、マスターズのZバランス増幅回路がそれにあたります。
この回路の特長はグランドに関係なく、入力差動演算により動作します。従って、その出力はグランドに関係なく動作しています。
具体的には、この回路のHOT/COLDの対グランド電位は0Vではなく、一概には決まりません。
それは重要なことではなく、HOT/COLD間にDCオフセットがとれていれば良いのです。
通常は、±1V近辺でバランス増幅しています。それでは、RCA入力では動作しないかと言うと、差動入力の片側をグランドに接続すれば、その差動入力はRCA入力であり、正常にバランス増幅します。
パワーアンプなら、スピーカーは+、-端子はグランドには関係がないので、グランドフロート状態で動作しています。
当然、ヘッドフォンを駆動する場合もバランス動作となります。

真空管アンプにおけるバランス増幅
真空管パワーアンプの場合

出力トランスを搭載し、にプッシュプル動作させれば、RCA入力によるバランス増幅動作と言えますが、出力トランスの片側巻線をグランドに接続してNFBを掛ければ、普通のプッシュプルアンプという言い方になってしまいます。
バランス増幅でNFBを掛ける場合、【第33図】に示すように、クロスフィードバックを掛けることもできます。

【第33図】真空管アンプにおけるバランス増幅アンプの例
【第33図】真空管アンプにおけるバランス増幅アンプの例

また、NFBはNFB巻線でおこない、スピーカーは独立して、グランドフロートするかたちで可能になります。
【第34図】に示すように真空管アンプにおいて、入力差動回路を用いてもバランス増幅ができます。

【第34図】差動回路によるバランス増幅・真空管アンプの構成
【第34図】差動回路によるバランス増幅・真空管アンプの構成

STAXイヤースピーカーを駆動するには真空管バランス増幅アンプが最適とも言えます(【第35図】参照)。

【第35図】真空管アンプによるSTAXイヤーSPドライブ回路構成
【第35図】真空管アンプによるSTAXイヤーSPドライブ回路構成

但し、静電スピーカーはDCバイアスを振動膜に与えて、両側(HOT/COLD)からバランス増幅で音が出ます。
従って、グランドを基準にDC電位を積み上げるので、グランドフロートバランス増幅とはなりません。

半導体パワーアンプの場合

【第36図】半導体アンプにおけるSTAXイヤーSPドライブ回路構成
【第36図】半導体アンプにおけるSTAXイヤーSPドライブ回路構成


2020年 7月 2日掲載


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