イシノラボ/マスターズ店長の連載
第1弾 日本オーディオ史
第32回 1980年初頭のころのオーディオアクセサリ
今や、オーディオアクセサリはオーディオ愛好者の最も興味があることだし、大きなオーディオビジネスジャンルでもある。
今回は、今から20〜30年以上前のオーディオアクセサリはどうだったのかを語ってみたい。
スピーカケーブルから始まった
スピーカケーブルは通常の電源並行<白,黒>ケーブルを<赤,白>ケーブルにして、これをスピーカケーブルとして、使うのが一般的であった。この頃のオーディオ評論家、オーディオメーカーでもそうだった。電流容量として、7A〜10Aタイプくらいがノーマルであった。当時のアメリカでは、透明シースにした並行ケーブルで、本質的に変わりがなかった。
電源ケーブルの高周波インピーダンスは120Ωで、トランジスタアンプの出力インピーダンスは0.1Ω程度で、受け側のスピーカーは8Ω(公称)であるから、高周波的にはミスマッチであるかも知れない。この頃では、最大電力伝送で600Ωマッチングをとるということはやられていない。すなわち、バランス信号ラインで600Ωで送り出し、600Ωで受け取るということは、とっくにやられていなかった。これは、600Ωラインをトランスなしで送り出すことが普及して、そうなると、送り出しアンプにとって、600Ωで受けることはアンプにとって、負荷が重くなることであった。従って、当時のプロ(レコーディングスタジオ,SRなど)はロー出し(150Ωくらいの出力インピーダンスで出す)、ハイ受け(10kΩで受ける)が一般的であった。
当時、故・長岡鉄男氏が太いFケーブル(屋内配線用単線)をスピーカケーブルに使い始めたのがユニークであったくらいであった。そうしているうちに、JVCのO氏が、「多重撚りあわせスピーカーケーブル」なるものを発案し、製品化した。O氏の説明によれば、従来のスピーカーケーブルはインダクタンスが大きく、アンプ電力がロス無く、スピーカーに伝わらない。この、「多重撚り合わせケーブル」は、撚り合わせているので、キャパシタンスが増え、インダクタンスを打ち消す作用があり、画期的なSPケーブルと主張した。形状が幅広のケーブル(現在でもわたしの手元にある)は見た目が異なり、大いに注目を引いた。当初、売れたらしいが、いつまにか消えてしまった。
「サンスイではどうしようか」ということになった。まずは、「ヒアリング用のスピーカーケーブルは太い同軸ケーブル(75Ω)を使い、並行ケーブルよりはよかろう」ということになった。
世の中は、がぜん、ケーブルに注目し、“電線音頭”というようなことも一時はやった。
日本人の潔癖好きから、スピーカケーブル素材の純度を上げれば、良いサウンドとなるということで、OFC(無酸素銅)の採用が注目された。これに各電線メーカーが飛びつき、4Nとか6Nとかの純度を競った。最終的には同和鉱業では8Nまでの純度を高めた。さらに古河鉱業では、大学教授との共同研究で、結晶を大きくする技術でPOCCなる線材を開発した。これは同社が商標登録している。
スピーカー設計経験のある私からすれば、ボイズコイルにもOFC化が及んでくるかと予測したが不発に終った。オルトフォンもMCカートリッジに高純度のOFCを使った実績は、皆さんもご存知であろう。
確か、パイオニアではOFCによる電源トランスを製品化したが、製造原価がアップして、ほどなく、やるところは無くなった。また、パイオニアではスターガット方式(4本のケーブルを織り合わせる)のスピーカケーブルを発売した。これは、一時、かなりはやった。
日本の傾向が伝わったせいか、海外にもスピーカケーブルメーカーが出現した。これは韓国系アメリカ人が興した“モンスターケーブル”であった。ネーミングはすばらしいと思う。このブランドは今でも健在である。
現在では、スピーカーケーブルに何を選ぶかはオーディオファイルの大きな楽しみだし、オーディオビジネスに大きく貢献しているので、とやかく言うべきでないが、ケーブルの効果はアンプを交換したよりも小さいことだけは認識してほしい。メインディシュがスピーカーケーブルだとしたら、オーディオはおかしな方向に行くだろう。車で言えば、車本体よりタイヤのほうが重要と言うようなものだろう。
電源ケーブル
電源ケーブルはアンプに付属して、着脱することは不可能であることが一般的であった。
段々と電源ケーブルまで、検討の波が押し寄せてきた。そのきっかけは、アメリカのプロ用アンプの電源ケーブルの影響であろう。電源ケーブル自体、直径10mm以上もあるものが付いているのである。中のケーブル太さも半端でなく、5ミリスクエアー以上の太さであった。勿論、ACインレット付ではなく、アンプからダイレクトに引き出されていた。
当時のアメリカのオーディオ界において、アンプとは、低インピーダンス負荷でどれだけ安定に大きなパワーが出るかが勝負であった。だから、当然、電源ケーブルは太くしていた。その影響を受けた日本のアンプも、電源ケーブルは、段々と立派になってきた。10万円以上のアンプとなると、2重被覆で、1.25ミリスクエアーのケーブル採用が当たり前になってきて、さらに。2.5ミリスクエアーの太さも珍しくなくなってきた。
そして、1980年代、それもCDが出現したあと、ACインレット付の海外アンプが多くなってきた。当初、我々も、評論家も、ACインレットをつけることは、取扱・運搬に便利であるが、電源の接触抵抗が増えることになので、賛成していなかった。しかし、海外、それも、アメリカのアンプがそうなれば、それに倣うことは、ビジネス的には成功の近道であった。
次々と、日本のオーディオアンプは3芯ACインレット付となっていった。3芯と言っても、日本の電源事情は2線方式であるから、グランド線は必要ではなく、遊ばせておくしかない。この環境で、グランド線をアンプシャーシに接続すれば、アンプ間でグランドループが出来て、ハムが増大する。
しかし、オーディオビジネス的には、オーディオファイルに電源ケーブルを交換して、その音質の違いを楽しませることができて、それから、ずっと、重要アイテムになった。
柱上トランスから、配電盤に入り、屋内配線を経て、ACコンセントまでくるのに、20mくらいの長さになる。その上で、2mの電源ケーブルで、どうして、そのような音質の違いが認識できるのか?いまだに、納得できる説明ができない感性の世界である。ケーブル効果を否定するものではないが、予算を考えて、賢明な選択をしてほしいと思う。
シグナルケーブル(RCAケーブルなど)
当時(1970年代)はまだ、RCAケーブル端子の作りは安っぽく、接触不良も多かった。使用ケーブルも単なるシールドケーブルで、フォノケーブルくらいがケーブル容量を考慮するくらいであった。
しばらくして、あるケーブル屋さんが、RCA端子の差込口をしっかりしたものを発売した。わたしも注目して、すぐその工場を訪問した。そこで、ケーブル作りの現場を見学できた。ケーブルは最少ロットでも2kmくらい作らないと、とても採算に合わないことも分かった。
そのうち、他社、とりわけ、JVCはこのような付属品ビジネスを増強してきた。そして、SONYも追随した。また、ケーブル各社もビジネスチャンスと捉え、増えてきた。オーディオ専業各社はケーブル屋ではないけれど、OEM形態で、販売を始めた。
オーディオアクセサリとしてのケーブルビジネス
CDが登場して、オーディオファイルはカートリッジを選んで、いろいろなサウンドを楽しむことが少なくなってしまった。オーディオ・ジャーナルも、方向を転換してアクセサリに重点を置いたところは、経営を維持できているようだ。
アクセサリの理論的効果の詮索は別として、ユーザーの皆様の趣味として楽しんでいただければ、よろしいと思います。繰り返しますが、特に高価なものは良く考えて購入されて、オーディオを楽しんで欲しいと思います。
次回は、その他のオーディオアクセサリについてもお話してみたいと思います。お読みいただき、感謝です!
2008年 5月28日掲載
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