BA-218FBG/P300Bを製作致しました。
BA-218シリーズのパーマロイコア出力トランスと300B
これまで、BA-218に300Bを搭載するカスタムアンプは何回か製作してとても良好なサウンドが得られています。
今回、パーマロイコア出力トランスと300Bを採用したのは初めてです。
パーマロイコアの特長
これまで、何回か述べましたが、パーマロイコアの特長は透磁率が高く、その結果、感度に優れ、ひずみが少ないことが挙げられます。但し、コアの価格が高く、また、オリエント材に比べ、最大磁束密度が低いので、パワーアンプに採用するとなると、巻線を多くする必要があります。
パーマロイコアは、聴覚的に考えると、微小レベル、ひずみ感の敏感な領域で、優れた性能を示すと思われます。ビジネス的には、どうしても価格がアップするので、真空管パワーアンプでは、オリエント材の出力トランスがほとんどとなっています。
一方、電圧増幅用のトランスでは、ひずみ性能において、パーマロイコアが採用されています。MCトランスでは、パーマロイコアの採用が大勢です。
BA-218FB/Pへのパーマロイコアトランスの限定採用
限定数のパーマロイコア出力トランスが入手可能となり、すでに、あと3台分のトランスが残るときに、Sさん(初めてのお客様)から、フルバランス増幅真空管パワーアンプ“MASTERS BA-218FB/P”に直熱3極管を採用したいとのリクエストがありました。さらに話が進んで、300Bにしようということになりました。そのうえで、パーマロイコアトランスを搭載することで、話がまとまりました。
具体的には、BA-218FB/Pに300Bを採用するとなると、EL34の3極管接続はバイアス電圧-38V程度で動作するのに対し、300Bは増幅率が低く、バイアス電圧は、プレート電圧400Vにおいて、-80V~-84Vと深くなるので、電圧増幅回路に工夫を凝らさねばなりません。具体的には、高い電圧での増幅において、クリップすることなく、ひずみレベルを良好にすることが必要になります。
そこで、初段管は増幅率が高い12AT7(ECC81)として、低ひずみ動作になるように、電源電圧、カソード抵抗、負荷抵抗を決定しました。
12AT7(ECC81)はRCA、GE、松下と、さらに、◇マーク付きのテレフンケンをテストしたところ、ひずみ、ノイズ特性で、◇マーク付きのテレフンケンがベストの結果を得ました。やはり、定評ある真空管の性能を確認出来ました。
そのうえで、充分なスタガー比を取ったうえで、クロスフィードバックを3dBと軽く掛けました。
300Bは直熱3極管ですから、ヒーターはハム防止から、DC点灯は必須です。そのうえで、ヒーター電圧は4.6Vとわずかに低めとしてあります。このようにすると、300Bのライフは大幅(50%程度)伸びると言われています。
このような検討と製作を経て、アンプが動作し始め、いよいよ最終調整に入ります。フィードバック量の少ない真空管アンプは、アンプのオープンループゲインに、仕上がりゲインは座右されます。従って、L/Rチャンネルのゲインを揃えることは、バイアス条件との兼ね合いがあり、調整ノウハウが必要です。
最終的にL/Rゲインは±0.1dB以内に入り、残留ハムノイズは0.3mVレベルに収まり、かつ、ひずみ特性はヒアリングレベル(1W)で0.06%以下と極めて優秀な特性が得られ、かつ、最大出力は20W+20Wをクリアすることが出来ました。
こうして一応の完成をみて、次は長時間テストを実施し、8時間程度を3回繰り返しました。この期間、同時にヒアリング致しました。
出力トランスコア、コンデンサ、真空管はエージングを施すことによって、サウンドが安定し、サウンド品位も向上します。
聴いてみる
まずは、クラシックからです。今回の音源はDECCAの名プロデューサー、ジョン・カルショウの名作品を集めたCDとしました。
当時のウィーンフィル、そして、レコーディングロケーションとしてベストなゾフィエンザールの音源です。
特に、混変調ひずみが音響的にも発生しやすい、オペラのコーラス、オケ、独唱者たちが一斉に音、声を出す部分の分離度と奥行き感に留意して聴き始めました。
まずは透明でしみわたるサウンドはこれまでの真空管アンプにないサウンドです。
そして、グランカッサの一撃にも全体の音場は全く乱れず、圧倒的でした。
次に、ソプラノによるオペラアリアを聴きました。特に、往年の名ソプラノの響きの清純さに聞き入りました。
さらに、オーディオアクセサリー誌の付録の女性3重奏(ソプラノ、メゾソプラノ、アルト)による教会デモボーカルを聴きました。レコーディングがシンプルなせいか、アンプによるものか、教会内で、天上からの響きと思えるくらいの女性ハーモニーに浸れます。
特に、モーツァルトレクイエム“ラクリモサ”では、思わず涙ぐむほどの感動を覚えました。
次は、ジャズ音源を聴くことにします。いつも聴くチャンスが多いのは、ビル・エバンストリオの“ビレッジ・ヴァンガード”でのライブCDです。お客さんからの、お皿をぶつける音が何とリアルなことか。また、各楽器の分離感は素晴らしい。このアンプの音調は、どちらかと言うと寒色系のすっきり感を覚えます。
よく、真空管アンプはゆったりしたサウンドと言われますが、この300Bアンプはそうではありません。和食の料理人が包丁で切った“お造り料理”のような切れ味を感じます。
ともかく、これまでの多極管アンプのサウンドとかなり違います。むしろ、よく作られた半導体アンプに磨きをかけたようなサウンドと私は感じました。
オーディオにかかわって、半世紀になりますが、まだ、まだ、経験不足を感じるし、興味深い現象に出会います。
そして、このアンプはSTAXイヤーSPをドライブするようにすることも可能です。おそらく、素敵なSTAXサウンドが出てくるでしょう。
素敵なフォルム
撮影した画像に示すように、アクリルプレートのフロンパネルに、アンプ上面には300Bが輝きます。割と、コンパクトなサイズにも収めることが出来ました。
興味のある方は、どうぞ、ご一報ください。