オーディオアンプは、ご存じのように、アンプ自身がトランスのようにパワー変換するものでなく、入力信号に忠実に、電源から負荷(スピーカー等)を動作させることです。その意味では、オーディオアンプはコントローラー(制御機器)なのです。
このコントローラー回路(電源回路を除く)がより忠実に動作するように、NFBが採用されて、より忠実度を高めていますが、その動作のさせ方がまずいと逆効果になって、返って、NFBを掛けないほうが良い!というような意見が出て、“無帰還アンプが良い!”と信じる方も特に真空管アンプファンには少なくないようです。
真空管アンプは、出力トランスというインダクタンス、抵抗、容量という複雑なデバイス(分布容量的)ですから、多量なNFBは時間遅れを生じて、NFBが正しく掛からず、それ以上に発振領域に近づいて、そのコントロール機能は不充分で、掛けないか、適切なNFB量が良いということが分かります。真空管アンプの場合、NFBを掛けない状態でも充分動作して測定できますし、NFB量を測定しながら動作状態を判断できます。
一方、半導体アンプは直結回路になっているので、NFBを不注意にはずすとアンプ出力電位がふらつき、アンプ動作ができなくなります。それで、アンプ設計者はNFBを掛ける前のオープンループの特性を推測して、回路を設計しているのです。
綿密にオープンループ特性を考慮する設計者は、事前にオープンループ特性の計算をして、その周波数特性をコントロールして、位相補償回路定数を設定して、設計試作をスタートし、動作させてそれが問題なく動作するかを検討して、設計を進めていきます。けれども大半の設計者は“発振安定度がある程度とれていれば良い”、“社内安定度試験(容量負荷試験)をパスすれば良い”というような作業していると思われます。それでもある程度のアンプができるのは先輩の残した資料のおかげです。しかし、“先輩の残した資料から外れない設計をすれば良い”ということになれば、新製品アンプはむなしいことになりませんか?
私自身も、長年アンプに携わっていますが、まだまだ、まだまだ、浅学であるということを自覚し、前向きにとらえて、新しい発見、工夫があるという喜びで仕事を続けています。
具体的には、MASTERSパワーアンプ増幅回路におけるNFBは、時間遅れがオーディオ帯域では全くないアンプに仕上がっています。【図1】に示すように、オープンループはそれほど高く設計していないので、30kHzまで時間遅れなくNFBが掛かっています。位相補償回路は、NFB回路の5PFの微分回路とMOSFETの負性抵抗分をキャンセルする220Ωだけと、オープンループ特性が極めてワイドレンジであることが分かります。
マスターズアンプのピュアで透明、奥行感のあるサウンドは、このような優れたコントロール回路によるアンプであるからです。
また、MASTERSパワーアンプは、電源ON/OFF時の立ち上がり、立下りは±電源が均等に立ち上がり、立ち下がるように設計しているので、スピーカー用リレーはありません。よりピュアなオーディオ信号をスピーカーに送り込みます。