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店長が日々感じたことを、オーディオエッセイ風に綴ります。開発日誌、コラムなど、様々な内容を情報発信しています。
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デジタルサウンドとアナログサウンドの味わい

オープンリールデッキと関わり合い

私のオープンデッキの歴史は古く、不満、不具合の期間も長かったです。
始めは、21才頃、当時、テープレコーダー研究会という組み立てデッキメーカーのような組織があって、都心でオープンデッキを注文製作していました。
略称としてTRKと呼んでいました。当時の初任給¥2万程度の時代、¥20万以上の販価でした。
その内容はAMPEX アイドラードライブデッキのデッドコピーというべきものでした。モデル名は339(さんざん苦労すると言う意味)でした。
私はバイトでせっせと積み立て、ようやく、入手することができました。
当時は宅配などなかった時代ですから、電車と徒歩で、製造所まで取りに行きました。そのメカは30kg近くあり、重かったですが、若さだったのでしょう、家まで持ってきました。
さて、そうなっても、メカだけで、録再アンプは自作しなければなりません。当初は、テープを回してみるだけの日々でした。
そうこうしているうちに、タムラに就職、時間を見つけては、録再アンプの製作に励みましたが、なかなかできない。
タムラを退社して、母校に戻って、音響研究用にオープンデッキが必要になりましたが、研究用には間に合わず、完成品を買うはめになりました。
当時は、奨学金が支給されていたので、何とか工面してTEAC 4000Sを購入し、4トラック、19cmで音響実験に使い、そのあとはテープミュージックソースを楽しむ程度でした。
そうして、サンスイ入社、スピーカー設計部で設計業務に励みましたが、社内にはデッキ自作研究者がけっこういて、独自の方式(テンション・サーボ)を設計できてしまう方々の仲間に入れて貰い、
いろいろと学ばせていただきました。
当時はオーディオがこれから花開く時期、社内は活気に溢れ、経営陣もエンジニアの自主性には大目に見てくれた時代でした。
サンスイ主催のコンサートが頻繁に開かれ、デッキ愛好家グループはコンサート録音をしてしまうこともやっていました。
私は大いに刺激を受け、TRK339がようやく4年がかりで動くようになりました。

さらにオープンデッキ・ブームは突き進んでいく結末

もちろん、LPレコード再生がオーディオ道楽のメインでしたが、それを上回る音質を得るには、レコード会社が採用している2トラック、38cmでないと、と言う願望が渦巻いてきました。
TEACをはじめとして、AKAI、SONYが相次いで、ツートラ・サンパチができるデッキを販売しました。
けっこうな売れ行きで、JVC、パイオニアが追随しました。ケンウッド、サンスイは参入しませんでした。
しばらくして、優秀なデッキが現れてきました。テンション・サーボ方式を取り入れたデッキです。
放送用デッキから民生用に作ったデノン、そして、独自に3Mのデータレコーダーの走行方式を採用したテクニクスです
海外ではREVOXがけっこう売れました。
私は、TRK339が大きく重いので、運搬できるデッキとして、パイオニアのデッキを買い、これは今イチの走行性能。
そこで、REVOX HS-77を買う羽目になり、録音会にデッキを担いで、参加していました。
1970年代です。それからも、オタリなどの優秀なデッキも発売されましたが、ビデオデッキによるPCM録音機が発売で、オープンデッキは姿を消し始めました。
それからは、皆さんご存じのテープ方式のデジタルデッキが発売され、期待されました。
ところがCD発売の1982年以降はCDで持ち切りとなり、録音するという趣味は少なくなりました。
近年は小型・軽量のマイク付きデジタル録音機が安価に買える時代となりました。

それでもアナログサウンドの最高を思い出したい

私は、10年前にTEACのオープンデッキを中古で買いましたが、その性能は今イチ。
そして、東日本大震災で、デッキの一部が壊れてしまいました。
それからは、手持ちのテープソフトはいたずらに在庫されていました。でも、いつも気になっていました。オープンデッキを!
オープンデッキ・オークションを眺めては、ため息をついていましたが、ついに4月、思い切ってテクニクス RU-1500を落札してしまいました。
届いたデッキはとても状態が良く、性能はばっちりです。
特にテンションサーボ方式が優れています。走行性能が素晴らしく安定しています。
TEACデッキはとてもかなわないです。
よくぞ、ここまで作った!とテクニクス根性が表れています。

テンション・サーボとは:3モーターデッキはフォワードモーターでテープを進行方向に引っ張ります。リバースモーターはテープを逆に引くようにテンションを持って、引きずり回されています。
走行速度はキャプスタンモーターで、保持されます。けれども、テンションが一定にならないと、テープの始まりは早く、最後のほうは遅くなります。
これでは、一定した音楽が保てません。これを重視したのがSTUDERで、いち早くテンション・サーボを取り入れて、走行スピードの安定化を図りました。
おおらかなのはAMPEXで、AG-440でさえもテンション・サーボ機能はありませんでした。

テープデッキは音がでるまでの儀式は、CDに比べるとものすごく面倒ですが、パソコン作業中に合間を見て聴いています。
やはり、オープンデッキサウンドはまったくデジタルサウンドとサウンドの基本的な味わいが違います。まるで、日本料理とフレンチの違いのようです。
どんなにCDが素晴らしいと言っても、その味わいはフレンチやイタリアンで、日本料理のような素材を生かす料理ではありません。
けれども近年のハイレゾはじっくり聴いたことがないので、何とかしたいです。
いずれにしても、過去の遺物オープンデッキを楽しんでいます。テープ音源は生禄ものが大半です。

ダイレクトカットレコードを聴く

1970年代には、アナログレコードの究極のサウンドを目指して、テープを通さず、ダイレクトにカットする方式のレコードが販売されました。
シェフィードラボからのダイレクトカットサウンドは、それは、それは、38/2Tに匹敵するサウンドでした。
けれども、ミュージシャンに大変なストレスを与えるので、はやることはありませんでした(ミスをすると演奏がやり直しになる)。
それでも、日本レコード各社は挑戦し、数枚のレコードが発売されました。
私のレコードプレーヤーを、何とメルカリで、¥3,200でゲットしました。
そのサンスイレコードプレーヤーを修理して使って、今、満足しているところです。
そこで、しばらく聴かなかったダイレクトカットのピアノソナタを聴きました(RCA 45回転、RDCE-4、1977年2月録音)。
それは凄いフレッシュサウンドです。Dレンジも比類なく広く、本質的に生なサウンドなんです。
そこには、フレンチやイタリアンで感じるチーズ臭さ、オリーズオイルの香りはありません。まさに、生そのものです。

そうしているうちに、お客様からTELがありました。バッテリー駆動アンプで、2WAYチャンネルアンプシステムを始められた方です。
チャンネルデバイダーの方式には、従来のアナログフィルター式と近年登場したデジタル方式があります。
そのお客様は、それまではデジタルチャンネルデバイダーでフラットな周波数特性を得て、それなりに満足されていたそうです。
しかし、「デジタルチャンデバとアナログチャンデバとでは“サウンドのフレッシュさ”がまるで違う!」と、うちのめされたようです。
AC電源駆動アンプで、SPを鳴らしているときは、音質のフレッシュさにそれほどの差異を感じていなかったそうですが、バッテリー駆動アンプで、SPを鳴らすと、はっきりと音質のフレッシュさの差異を感じてしまったとのことです。
魚で言えば、”生き”が違うと例えられていました。

デジタルチャンデバは高価でパソコン調整が必要です。けれども周波数フラットも大切ですが、フレッシュさが優先というお話でした。
そういえば、山梨で同じようなデジタルチャンデバ方式を採用している方に聴かされて、すばらしく4chシステムは良くなった!と私は激賞しました。
けれども、長く使っていると、フレッシュさで段々と違う心理がうずいてくるようで、数年前にやめて、真空管アンプによる2WAYSPとシンプル方式にしてしまいました。
これは、オーディオ道楽として贅沢な悩みと楽しみと私は思います。どちらが良い悪いという次元を超えています。

76/2TRレコードを聴く

1970年代、第一電器の熱心な方達は上記方式のスペシャルレコードを造り、販促用に配っておりました(カートリッジを買えば、おまけに貰える!)。
それを改めて、ダイレクトカットレコードと聴き比べると、それはダイレクトカットレコードのほうがフレッシュでした。
それは、76/2Tが凄いと言っても、高域特性は良くなるだけですから。
当時のオーディオは本当に楽しさにあふれていました。
皆様、今でも間に合います。素晴らしい道楽を、生活を乱さない程度の費用で大いに楽しみましょう。


高効率ホーンドライバー用パワーアンプについて

パワーアンプとスピーカーとの関係

パワーアンプとスピーカーとの関係をシンボルに使って、【図1】に示します。パワーアンプは一般的な半導体パワーと仮定します。仮に、接続するスピーカーのインピーダンスを8Ω、効率90dBとします。効率90dBとは、スピーカーに1Wの入力(2.83V/8Ω)を加えたとき、1m離れた時点に発生する音の大きさを音の単位をデシベル(デシベルとは、電話発明のベルのあたまにデシ(1/10の意味))を付けて表します。

音の単位は、フォンということがかつて一般的でしたが、現在ではデシベルで表します。静かな部屋の暗騒音は30dBくらいなら、大変良好なリスニングコンディションと言えます。ちなみにスピーカーの特性を測定する無響室の暗騒音レベルは20dBがやっとです。(厳重な防音設備が施されます。)イシノラボのリスニングスペースの暗騒音レベルを測定してみました。48dBでした。一般的にエアコンをつけると暗騒音レベルは10dB以上、上昇します。夏のオーディオリスニングは不利な条件です。
ところで、90dBの音はかなりうるさい大きな音です。連続音ですと、5秒も続けば近所迷惑になります。
このとき、アンプに必要な入力電圧は、このパワーアンプの増幅率を10倍(20dB)とすると、2.83Vの1/10の0.283Vになります。プリアンプから、0.283Vをパワーアンプに加えればそうなります。
そこで、高効率ホーンドライバーをこのアンプに接続したら、どうなるでしょうか?ホーンドライバーは非常に高効率です。ここでは110dBとします。110dBの音はジェット機離陸を近距離で聴いたことに相当するくらいの大音量です。長時間聴くと、難聴になります。ちなみにオーケストラのFFFでも指揮者の位置で110dBを超えることはありません。例外として、グランカッサの一撃では110dBを超えることはあるでしょう。
“ちょっと待って!”という声がかかりました。“私は1mという近距離で聴くことはないです!”、“スピーカーから4mくらいの距離で聴きます。
110dBという音量は2mと倍の距離で聴くと、6dB下がり、104dBになります。4mとなると、さらに6dB下がって、音量は98dBになります。これくらいの大音量では、少なくとも、難聴になることはありません。それなら、ホーンドライバーから出る音量はもう少し大きくでるようなマージンがあっても良いとなると、1m距離で6dBアップさせると110dB+6dB=116dBの音量になります。ホーンドライバーに入る電圧は2倍になり、電力に換算すると4倍の4Wになります。ちなみにホーンドライバーの耐入力は4~5Wに作られています。パワーアンプの最大出力は4Wもあれば充分過ぎることになります。私は、ホーンドライバー用アンプの最大パワーは2W~3Wが最適と思っています。
ところが、オーディオアンプメーカーからは小出力のパワーは販売されていません。例えば100Wアンプで、ホーンドライバーを動作させることは、ホーンドライバーを破壊させるかも知れない恐ろしく乱暴なことだと思います。

パワーアンプのゲインと残留ノイズの関係

前述の事項をパワーアンプの性能面で記します。10倍(20dB)のゲインを持つアンプに110dBのホーンドライバーを接続すると、少しの入力で、大きな音が出てしまいます。プリアンプのボリウムを少し上げただけでそうなってしまう現象が発生します。それは我慢するとして、アンプのノイズ成分は90dBのスピーカーを接続したときより、10倍(20dB)も大きなノイズが再生されます。これでは、音楽成分にノイズ成分が相対的に大きく聴こえてしまいます。せっかくの高効率もノイズが大きく聴こえてしまっては困りものです。
その解決法は、パワーアンプの増幅度を上がった分だけ下げれば、ノイズ成分は下がってきます。簡単で多くの場合、なされる方法はNFB量を増やすことです。NFB量を増やせば、ゲインは下がります。けれども、パワーアンプのS/N比はノイズ成分が下がった分だけ増幅度が下がるので、S/N比(ノイズ/再生信号レベル)は変わりません。
NFB量を増やすことは、アンプ自体(オープンループと言う)の周波数レンジを広げないとアンプとしても発振安定度を悪化させます。具体的には電圧フィードバック方式のパワーアンプでは必要な再生帯域のゲインを維持して、超高域の周波数特性を落とす(位相補償)ことでかろうじて、実用化できています。真空管アンプではNFBループにコンデンサー時定数、出力トランスが入っているので、発振安定度は悪化し、位相補償することでそのアンプの音質が劣化してしまいます。故、上杉氏はNFB量14dBくらい限度という持論で、私も支持します。

半導体アンプは直結回路ですから、すぐ感知できる音質劣化はないものの、位相補償を施しても、どこか音質がイマイチということで、NFB量50~60dBくらいが限度と認識している設計者が多いようです。その面からも著しく増幅度の低いアンプは販売されていないことをみても分かります。市販アンプ自体の増幅度は20dBから30dB、大きくても38dB(65倍)くらいに収束します。

マスターズの考えるホーンドライバー用パワーアンプ

ちょうど、現在製作している上記使用目的のパワーアンプについて述べてみます。バランス増幅アンプで実現させると基本回路はZバランス回路を採用します。そして、このパワーアンプ部の増幅度を18dBとわずかに低くしました。NFB量を多量に増やして、増幅度を下げることはしていません。(この時のノイズレベルは80μV(LPF:80kHz)
そうして、トランス式パッシブプリアンプで高音質を得ているスーパーパーマロイコア採用のマッチングトランスを、パワーアンプとホーンドライバー間に設置することにしました。このマッチングトランスの巻線方法は1次/2次巻線を2本同時に巻くバイファイラー巻きを施して、かつ、巻線比は3:1としてあります。(【図4】参照)
ホーンに掛かる電圧は1/3に低下しますから、マッチングトランスによる増幅度の低下は9.5dBになり、このパワーアンプの仕上がり増幅度は18-9.5=8.5dB(2.68倍)となり、高効率ホーンドライバーを動作させるには具合の良い増幅度になります。ですから、プリアンプのボリウム位置は少し回して大音量になることなく使いやすくなります。(0.283÷2.68≒0.11V入力で、90dBの音が出てくる。)そして、ノイズレベルは80μ÷3≒26μV(LPF:80kHz)と超低ノイズのパワーアンプができます。(【図5】参照)
さらに良いことに、ホーンドライバーのインピ―ダンスは8Ωですから、パワーアンプの負荷インピーダンスは8×3×3=72Ωなります。このパワーアンプは負荷抵抗72Ωなりますから、パワーデバイスに流れる電流が同じ分だけ減少し、MOSFETのリニアリティ(ひずみ)がアイドリング電流を増やすことなく改善されるAクラス動作になっています。
最大パワー電圧はトランスなしの直結条件では8Ω/14V出ますから、計算上14V÷3≒4.67Vになりますが、負荷抵抗が大きくなる分、アンプ電源供給電圧の低下が少なくなるので、実際は5V以上(3.12W)出ます。
パワーが下がった分、ホーンドライバーにとって安全になり、さらにマッチングトランスによりDC成分はホーンドライバーには加わりませんのでさらに安全になります。
もちろん、そのサウンドはTANNOYアーデン(93dB効率)で聴いてみました。混濁感は全くなく、澄み切ったサウンドが出てきました。
まだ、実験していませんが、電源をバッテリーにすればさらに素晴らしいサウンドのアンプになるでしょう。
最後に、アンバランス増幅で制作するときは、Xカレントアンプを採用すれば、同等の優れたアンプができると思います。その費用はバランス増幅アンプに比べてお安くなります。
ニア・フィールドで聴きたい方にもお勧めです。(【図6】参照)

【図1】パワーアンプとSPの接続

【図1】パワーアンプとSPの接続

【図2】パワーアンプ、ホーンドライバ、リスナーとの関係

【図2】パワーアンプ、ホーンドライバ、リスナーとの関係

【図3】Zバランス増幅アンプとスピーカの関係

【図3】Zバランス増幅アンプとスピーカの関係

【図4】Zバランス増幅アンプとホーンドライバとの間に挿入されるマッチングトランス

【図4】Zバランス増幅アンプとホーンドライバとの間に挿入されるマッチングトランス

【図5】ホーン、ドライバとリスナー位置による音圧との関連

【図5】ホーン、ドライバとリスナー位置による音圧との関連

【図6】Xカレントアンプによるホーンドライバを構成する方式

【図6】Xカレントアンプによるホーンドライバを構成する方式


カレント・フィードバック(電流帰還)回路

ここ10年くらい前から、アナログアンプ回路について、カレント・フィードバックという回路方式が紹介されるようになってきました。
浅学ながら、自分なりに調べてみると、カレント・フィードバックは、過去のトランジスタアンプ、また、真空管アンプのNFBの掛け方と共通性があることが分かってきました。

過去の半導体アンプと真空管アンプのNFB

【図1】に示すように、初段に差動アンプを採用していないアンプ(1970年代前半)においては、アンプ出力ステージより、初段のエミッタ、ないし、ソースにNFB抵抗を介したNFBが成立していました。具体的には、初段の電流帰還抵抗にNFB抵抗が接続されるかたちです。
同じように、真空管アンプでは、アンプの出力トランス2次側から、NFB抵抗を介して、初段のカソードにNFBが掛けられています。(【図2】参照)

カレント・フィードバックの考え方

カレント・フィードバックに基本的な概念は【図3】に示すように、初段にバッファーが設置され、充分インピーダンスを低くして、その回路の電流感知回路部にアンプ出力部からNFB抵抗を介してNFBが掛けられます。抵抗値は比較的に低く(1kΩ程度)しておけば、NFBは電流感知して、その変動分はI/V変換回路を経て電圧になり、出力バッファーで構成されます。これがカレント・フォードバックアンプといわれる基本的な考え方です。

カレント・フィードバック回路は、これまで、初段に必ず設置された差動回路(【図4】参照)を採用していないです。“JBL SA-600”から始まったとされる差動構成回路は現在でもほとんどのアナログ半導体アンプに採用されています。ある意味、先祖帰りともいえる方式です。

そもそも、カレント・フィードバックはスルーレートを高くしたい(ワイドバンドアンプ:高周波領域まで増幅できる)OPアンプICメーカーがこの回路に行き着いたとされ、市販されているハイスルーレート・ICアンプのスル―レートは1000V/μVを超えています。繰り返しますが、スルーレートが高いことは高周波増幅能力が高いことを意味します。100MHz近辺のビデオ回路に使われています。
差動回路に代表されるボルテージ・フィードバック回路(【図5】参照)は超高域、高周波帯域ではオープンループ特性が落ちて、NFBを掛けることにより、アンプの位相偏移が大きくなり、うまく位相補償回路を駆使しても位相偏移は135度くらいになってしまいます。180度になると発振します。オーディオアンプの常識としては、連続波での応答では発振しないので、問題ないとされています。

ところが一部の音質に敏感な方々から、どうも、ボルテージ・フィードバックアンプを聴くと、どこか違和感、混濁感があると指摘されることもあります。そのことをオーディオを電気的に検証しようとしても検証できず、今なお、このようなアンプ談義に終わりがありません。なぜなら、音楽のような過渡信号に対する解析は進んでいないからです。おそらく、過渡信号に対して位相偏移が大きいとNFBが理論どおり掛からず、結果的に満足するサウンドと感じられないのでしょう。
発振回路的なアプローチでは、負性抵抗の発生により、サウンド的に劣化する可能性があるという見方もあります。

上記のような現象により、いまだに、フィードバック量の少ない無帰還の真空管アンプに根強い人気がありますし、エレキギターアンプにトランジスタアンプが採用されない根拠にもなっているのではないでしょうか。
そうこうしているうちに、1990年代、差動回路によるボルテージ・フィードバックに限界を感じた一部のエンジニアは、2000年あたり、カレント・フィードバック回路をオーディオアンプに採り入れ始めました。
理論的には、アンプ位相偏移は極限に抑えられることで、NFBが音楽のような動的成分であってもNFB演算が正確におこなわれるとされています。負性抵抗成分も発生しないとされています。
【図6】にシンプルなカレント・フィードバック回路例を示します。このカレント・フィードバックアンプ回路初段はバッファーで構成されるので、初段は出力からフィードバックを掛けられないことになります。また、アンプ全体にフィードバックが掛けられないので、DC安定度はボルテージ・フィードバックに比べて少し不利なようです。
具体的には、代表的なアンプブランドではあるA社では、全面的にカレント・フィードバック回路が採用されています。今から考えると、それ以前とその後ではA社のサウンド傾向は微妙に変化したという指摘される方もおられます。

最近では、カレント・フィードバック回路部をモジュール化して、オーディオアンプ回路に採用するオーディオブランドもあるようです。オーディオクラフト誌や、オーディオ誌において、モジュール搭載アンプのサウンドが高い評価を得ているとは言えず、さらに、上記に具体的にカレント・フィードバックについて言及されていることはあまりないようです。

関連事項

関連事項として、山水のダイアモンド差動回路(【図7】に示す)は2組の差動回路が上下に配置され、4か所のコレクタ加えられた信号電流成分は次段のI/V回路に接続され、バッファーとされるパワーステージ回路で構成されます。この回路は初段に通常の定電流回路を伴った電流制限回路があるもののダイアモンド差動回路に電源制限がなく、電源電圧までフルスイングすることが出来るので、スルーレートは驚異的な200V/μVです。そのダイアモンド差動回路から、バランス動作に展開したのがXバランス回路です。

一方、マスターズのZバランス回路も、初段差動回路に定電流回路を設けていませんので、電源電圧までフルスイング出来ます。電源電圧はそれほど高くしていないので、200V/μVには達していませんがハイスルーレートアンプです。ハイスルーレートアンプでは位相偏移が少なく、負性抵抗の発生が少ないと言えます。どちらかと言うと、山水電気のダイアモンド差動回路は今から考えると、結果的にカレント・フィードバックの長所を生かしているようにも思えます。具体的には差動回路を採用していても、定電流回路を設けないことがハイスルーレート性能を達成する要素のようです。

さて、スルーレートの値ですが、フィードバック量の少ないアンプでは1V~10Vもあれば充分でしょう。また、ゲインが取れないバッファー/フォロアー回路には、負性抵抗による発振が発生しないように、入力に打ち消し抵抗を付けておくことが肝要です。

【図1】差動入力回路を採用していなかった1970年代前半のアンプ(2ch分)

【図1】差動入力回路を採用していなかった1970年代前半のアンプ(2ch分)

【図2】真空管アンプにおけるフィードバック

【図2】真空管アンプにおけるフィードバック

【図3】カレント・フィードバック基本構成

【図3】カレント・フィードバック基本構成

【図4】差動入力回路を採用し、コンプリメンタリー構成のアンプ

【図4】差動入力回路を採用し、コンプリメンタリー構成のアンプ

【図5】ボルテージ・フィードバック基本構成

【図5】ボルテージ・フィードバック基本構成

【図6】カレント・フィードバック構成の例

【図6】カレント・フィードバック構成の例

【図7】ダイアモンド作動回路の基本構成

【図7】ダイアモンド作動回路の基本構成

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