コンパチブル・プリメインアンプ“MASTERS AU-700BD”について考察してみましょう。
最近、このキュートなアンプに多くの関心が寄せられています。
今、ブログを書きながら、聴いています。歯切れが良く、明快で、分解能が良く、反応も抜群です。POPS、ジャズ、クラシックも、バロック、室内楽にも最適ではないでしょうか?
また、高効率スピーカからは本当の静寂に、炸裂するサウンドを聴けるでしょう。
そこで、落ち着いて、このアンプの電気的性能の測定を思い立ちました。
まずは、電源はAC100Vの電源BOXから供給される方式で行いました。
【図1】に示すのが、周波数特性です。これは、10~100kHzまでの周波数応答を測定したもので、10~100kHz±0.5dBで、フラットです。これは、優秀なアンプならこのくらいの値を示すので、そう珍しくはありません。
【図2】に示すのが、何と1mWから10Wレンジまで、ひずみを測定したものです。通常の測定データですと、100mWで済ませてデータがあります。100mWと言うと、(8Ωなら)1V近くの出力があるのですから、90dBのスピーカでもがんがん音が出ます。
そこで、わたしは、1mWまで測定することを試みました。10mW(8Ω)で0.28Vですから、10mWなら性能の良いひずみ率計ならば測定できます。わたしの使っているHP8903Bは、更に10dB以上少ない電圧でもひずみ測定が出来ます。
1mWは0.086Vですから、何とか、測定できました。それ以下はHP8903Bでは測定不能です。
また、ひずみの測定は、ノイズもひずみと一緒に測定するので、ひずみ率計のローパスフィルターの値がひずみデータに影響します。AUDIOPRECISIONの自動測定器のように、ローパスフィルターを20kHzにして、10kHz以上のひずみ成分が測定できす、結果的に良いデータがとれる業界向けの測定器もあります。
さて、ローパスフィルターは80kHzとして、ノイズ成分の有害として、ワイドバンドでひずみを測定しました。
【図2】のデータで素晴らしいのは、1kHzと10kHzのひずみがほとんど同じ値を示したことです。普通は、高域になるとデバイスの高域特性の影響でNFBが減り(減らし)、ひずみが多くなるのが普通です。
AU-700BDでは、それはほとんど一緒で、しかも極めて低い、優秀な結果を示しました。また、残留ノイズが少ないので、何と24.4μVを記録しました。この値は真空管アンプが1mVの残留ノイズとすれば、1/40の低さです。半導体アンプは300μVくらいですから、これと比べても、1/10以下です。
従って、深夜、ニアフィールドで聴いても、まったくノイズは聴こえません。
また、110dBという高効率ホーンドライバーでも、ノイズは聴こえません。
静けさの世界があります。皆さんが105dBくらいのALTECスピーカで聴いたとしても、静けさは保てます。85dBくらいのスピーカで聴いたとしても、その音の大きさは100mW(±20dB)で充分なのです。
本格的なオーディオルームがあるとしても、平均レベルは1Wならばとても大きいほうです。
要は、微少なサウンドには人間の聴覚は危険を感知する本能から鋭敏です。大きな音になると、鼓膜を守るためにブロード(それほど精密ではありませんが)なのです。従って、微少レベルのクリーンさ、ひずみのなさが重要なのです。
ここで、数字が分かりにくいというご感想も頂いていますので、参考に表を示します。
前提として、負荷抵抗(スピーカ)は8Ωとします。
パワー | 出力電圧 | 音圧比 | |
---|---|---|---|
200W | 40.0V | 0.0dB | 200Wを基準するとたった3dBの違いです。 |
100W | 28.2V | -3.0dB | |
50W | 20.0V | -6.0dB | |
20W | 12.8V | -10.0dB | |
10W | 8.9V | -13.0dB | |
2.0W | 4.0V | -20.0dB | |
1.0W | 2.82V | -23.0dB | 皆さんが(90dBのスピーカで)聴いているレベルは、大きい音でこの程度です。 |
0.1W(100mW) | 0.89V | -33.0dB | |
10mW | 0.28V | -43.0dB | |
1.0mW | 0.086V | -53.0dB | ひずみ測定限界 |
0.1mW | 28.2mV | -63.0dB | まだまだ聴こえる音です。 |
0.01mW | 8.9mW | -73.0dB | これでも聴こえます。 |
0.001mW | 2.82mW | -83.0dB | SPに耳をつければ聴こえます。 |
0.0001mW | 0.89mW | -93.0dB | 優秀な真空管アンプの残留ノイズ |
0.00001mW | 0.282mV | -94.0dB | トランジスタアンプの標準ノイズ |
0.000001mW | 0.089mV(89μV) | -104dB | |
0.0000001mW | 28μV | -114dB | MASTERSのアンプの残留ノイズ |
【図1】 周波数特性
【図2】 ひずみデータ
【図3】 バッテリー電源で動作させたときのひずみデータ