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イシノラボ/マスターズ店長の連載

第1弾 日本オーディオ史

第29回 AU―D607F,AU―D707F,AU―D907Fの誕生

スピーカシステム“SP―V100”のその後

前回のスピーカのお話は、利益は厳しかったが、売れ行きはかなりの実績を残し、その勢いで下位機種、SP−V70も後続発売することができた。

スーパー・フィードフォワード搭載アンプの詳細検討

さて、第27回の続きにお話を戻しましょう。ブロックケミコンの新メーカーの導入は、特に資材部において、異論が出てきた。それはもっともなことだった。「ニッケミ、ニチコン、エルナーと3社のケミコンが使えるのに、今更、新規会社のものを採用することはないだろう。」ということだった。私も、各ケミコン会社のトップエンジニアとは面識があったし、随分、仕様、音質に無理を言ってお世話になっていた。今でも、ニッケミのA氏、エルナーOBのI氏とは、メールの交換等のお付き合いがある。

また、品質管理部門からは、「品質に問題ないか?」との心配もよせられた。品質については、「民生品より品質に厳しいと思われる工業用ケミコンを製造しているので、問題はなかろう。」と説得した。と、言ってみたものの、自分自身のも心配はあった。日立コンデンサは、採用後、1回、電解液漏れ事故を起こした。電解液は導電性であるから、当然、シャーシ内でショートして、アンプの電源回路は壊れた。船橋のユーザーさんであったので、近いので飛んで行って、状況を確認し、お詫びした上で、アンプを引き取らせていただき、修理部門に回した。それ以後は、全く事故はなかった。

次に、重要な価格については、日立コンデンサ社内の調整で、上記3社に負けないベストプライスを出してきた。資材は部品を安く買うことも重要な任務であるので、この点については、解決できた。その後、サンスイアンプには、ブロックケミコンは日立コンが主流になったが、上記3社のブロックケミコンも日立コンデンサと組み合わせて使うことも行われた。

次の難関は、音質検討を行った結果、部品コストが予算を著しく超過して、利益面を圧迫してきたことであった。この苦労は今でも変わらないが、メーカーとして「どうするんだ!」という声が飛んできていた。具体的には、ブロックケミコンにパラに付けるフィルムコン、高音質ケミコンの採用、高音質抵抗の重要部分への採用であった。一度、付けてしまうと、取ってしまったアンプのサウンドは聴けなくなるほどの差異がでた。少しでも利益率を改善しようという目的を裏切る状況であった。社内各部の関係者には申し訳ない気持ちでいっぱいであった。しかし、今度の新型アンプで音質の評価が下がったら、売れ行きが下がってしまう恐怖もあった。

価格設定は紛糾した。上司が頑張ってくれて、「競争の激しい、AU−607クラスが利益を減っても、仕方ない!」との決断を得てくれた。上位のAU−707,AU−907クラスは、予定より少しだけ定価をアップして発売することに決定した。結果として、Dシリーズよりも利益率は改善したが、ビジネス的には、トップの売上にならないと利益が上がらないところに立たされた感じであった。

フィードフォワード採用の新型プリメインアンプのデザイン

このシリーズから、これまで、採用していたレバースイッチが採用できなくなった。それは、スイッチ各社が一斉にプッシュスイッチに以降したからであった。その理由は、プッシュスイッチのほうが安く、小型化が可能、プリント基板への取りつけも簡単であったからだ。プッシュしたかどうかの表示は、安くなったLEDを全面的に採用せざるを得なかった。このシリーズもずっと担当したOさんが引き続き頑張ることになった。(Oさんは、現在、仙台在住で、マスターズ製品もお世話になる予定である。)材料費予算も削られ、Oさんも苦労されたことと思う。でき上がったフロントパネルデザインは、やや平面的であったが、ボンネットにウッドを採用したので、違和感も、安っぽい感じもなく、社内外の評判も悪くなかった。しかし、私自身はDシリーズのほうが高級感もあり、重厚さがあって、今でもこれを支持する。しかし、レバースイッチが無くなったのだから仕方がない。以降のオーディオ機器のスイッチはプッシュスイッチが全盛となった。

電源トランスのこと

電源トランスは音質に相当影響することは、そもそもアンプは電源からのパワーをコントロールしてスピーカに供給するのだから、当たり前の話であろう。トロイダルトランスは、閉磁路構造であるから、コアの最大磁束密度を相当高くする(16000ガウス以上)ことで、小型化、レギュレーションの改善ができた。漏洩磁束も、電流の少ない状態、すなわち、音が出ないときには、確かに改善ができた。このような理由と、先進のイメージもあって、Dシリーズでは、トップ機種にはトロイダルトランスを採用してきた。

しかし、今度のシリーズで、いろいろ電源トランスを試作してもらい、テストすると、必ずしも、トロイダルトランスが良い、との評価にはならなかった。特に、大きな音で、楽器が多くなる場面において、微妙な差異であるが、トロイダルトランスはサウンド傾向が硬くなるような感じがした。これは、サウンド決めの少数の関係者間でも、一致した見解であった。「どうしてそうなるのか?」をトランスメーカーに問い合わせたが、はっきりしたことが分からない。そうこうしているうちに、ある中堅のトランスメーカーが、トロイダルトランスの動的状態(大きな電流が変動して流れるとき)で、漏洩磁束が大きく、かつ、かなり不規則に出ているとの非公式データを見せてくれた。直感的に、「これがトロイダルトランスの問題点だと思った。トロイダルトランスは、構造的に1次,2次巻き線間に静電シールドを施すことは困難であるし、大型トロイダルトランスとなると、整列巻き(綺麗に巻くこ)とは困難であった。従って、漏洩磁束が不規則に、かつ、結構な大きさで出てくると推測出来るのである。それではと、無理を言って、静電シールド付きのトロイダルトランスを試作してもらった。結果は非常に良かったが、とても量産の採算に合うものではなかった。

EIトランスやカットコアトランスは、綺麗に巻くことが前提であるから、このポイントで、トロイダルトランスより、良い結果が出ると判断した。トップ機種のAU−907では、EIとカットコアトランスの中間的な電源トランスを採用したが、製造トランスメーカーの都合もあって、内容を公表することはできなかった。カットコアトランスによって、コストアップにはなったが、電源トランスの問題は解決できた。

下位機種である、AU−607,AU−707は当然、EIトランスで、特に問題はなかった。

トロイダルトランスの問題点は現在でも抱えており、巻線作業に相当注意して、綺麗に巻くとか、磁束密度をあえて下げて使わないと、良いサウンドにはならないと思っている。ちなみに、WestRiverアンプも、普及レベルのパワーアンプの一部にトロイダルトランスを採用しているが、1次巻線を120Vで設計してもらい、その上で、100V動作させて、磁束密度を20%以上下げることをやっている。

少し、外れるが、プリアンプ等のトランスからの漏洩磁束でハムノイズに悩まされるので、厳重なシールドを施す高級トランスがある。それはそれで良いのだが、スペースに余裕があるなら、安価な電源トランスを2個使い、1次巻線をシリーズ接続結線で使えば、トランスのシールドがなくとも、漏洩磁束で悩むことは全くない。何故なら、磁束密度を1/2にして使用するからだ。マスターズのプリアンプもこのようにして、漏洩磁束による問題はクリアして、少しでも購入しやすい価格設定に努力している。

パワートランジスタのこと

1970年代の終わり頃には、パワートランジスタの形状はCANタイプから、大幅コストダウンできた樹脂パッケージに移行していった。特にTO−3P型パッケージは、ビス1本でヒートシンクに固定できるので、メーカーにとっては、工数削減にも大きく寄与した。オーディオマニアから見れば、安っぽく見えて、困ったことであったが、世の流れがそうなってきたのだから仕方がない。一方、性能に問題点はないのかと思った。まず、樹脂モールドタイプとなると、静電,電磁シールドがCANタイプに比べ、弱くなることは明白であった。また、実際、音楽信号を入れると、樹脂モールドトランジスタから、音楽が聴こえる。すなわち、トランジスタが振動するのである。

トランジスタには流れる電流によって、振動エネルギーが発生しているのである。その証拠は、パワートランジスタが電流破壊するときは、パワートランジスタのパッケージが物凄い音をたてて、裂けて吹っ飛ぶのであった。CANタイプも振動しているが、メタルCANケースでかなりダンプしているので、聴こえない。そのようなわけで、トランジスタの振動を、銅のような非磁性体メタルでトランジスタを面で押さえるとかなり改善できた。これは当時、実用新案として出願した。ところが、アンプの流れはヒートシンクの共振を防ぐ方向に行ってしまった。まず、トランジスタの振動を抑えてからそうすべきであった。

そのような意味からも、上級機種であるAU−707,AU−907クラスには、2本のビスで固定するTO―200型の大型サイズを採用した。コレクタ損失は200Wもあった。従って、アンプ出力が100Wを超えてもシングルプッシュプルで構成でき、パラレルプッシュプルに見られがちな音のにじみを避けることもできた。原価面でもコストダウンとなって、いいことずくめとなった。

もちろん、このシリーズもDシリーズ同様、マルチエミッタタイプのLAPTを採用したので、高域カットオフが伸び、無理のないNFBが掛けられ、低ひずみと高音質を両立できた形となった。

いよいよ発売になるFシリーズ

このシリーズはスーパーフィードフォワードを採用したから、アンプのネーミングはAU―D607F,AU―D707F,AU―D907Fとなった。アルファベットのネーミングにおいて、それぞれ聞いて受ける感じがあり、A,D,G,P,Tなどはインパクトある響きを与える。またXは新しさへの期待、Zは最後に到達して立派さを与える。その意味では、Fというアルファベットはやや弱い気もしたが、このネーミングいたしかたなかった。

それでは、今回はここまで。お読みくださって、ありがとうございます。次回をお楽しみに!


2007年10月14日掲載


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