前回のブログでご紹介した、MCトランス入りフォノイコライザ“MASTERS PH-700/CUSTOM”の真空管整流回路の話題です。
MASTERS以外、どこもやっていない整流真空管方式による±2電源回路について、具体的な回路図を公開します。
このようなユニークな方式にたどり着いたのは、従来の定電圧回路による半導体プリアンプのサウンドが、どちらかというとハードで、どこか、ひっかかりのあるサウンドがずっと気になっていました。
仕方なく、定電圧電源を省いて、半導体ダイオードで整流後、π型フィルターでリップルを除去して、アンプユニットに電源供給します。
これでかなり改善されます。それでも、あと少し、何とかならないか?という気持ちが湧いてきておりました。
その原因は半導体ダイオードがノイズを出すこと、逆流する時間(リカバリータイム)があることなどが原因かなとも思ったりします。
そこで、熱電子による整流電流が流れる真空管は上記のような問題点が一切なく、小電流を消費するアンプなら、採用できそうです。
ところが、半導体アンプは±2電源、具体的には、+15V以上、-15以上の正負電圧が必要です。
いろいろ考えて、整流真空管を2本使って、全波倍電圧整流方式を考えました。
その具体的な回路を図に示します。どうしても2本の整流管を必要とするので、ヒーター電力を2本分必要、電源トランスは2個必要とします。
それなりの規模になりますが、この方式でフォノイコライザを登場させて以来、好評をいただいております。
特に、“スムーズ、瑞々しい、奥行感のあるサウンド!”と評価されております。
ご注目下さい。
整流真空管方式による±2電源回路
MCトランス入りフォノイコライザ“MASTERS PH-700/CUSTOM”
フォノイコライザ“MASTERS PH-700VTS”は、真空管整流電源によるトランジスタ回路(API2520)のフォノイコライザで、発売以来、好評をいただいております。
また、MCトランス“MASTERS MC-203”も同様、大変好評で、少なからずの台数実績になります。
最近、あるお方から、両者をまとめたらどうかというリクエストがあり、“それではやってみよう!”ということで、画像に示すような、MCトランスとフォノイコライザを一体搭載することに致しました。
そうなると、漏洩磁束を防ぐために、電源部は別筐体に独立させることにしました。
電源部とアンプ部とは、ある程度(60cmくらい)以上の距離を離せば、充分なS/H比が取れることも確認できました。
また、まとめることによって、接続するRCAケーブルも不要で、MCトランスとフォノイコライザとは最短距離で配線できました。
使い勝手は非常によく、どのようなカートリッジ(MM,DL103タイプ,テクニカタイプ,オルトフォンタイプ)にも対応できます。
そのサウンドは豊かで、暖かいサウンドで、瑞々しく、アナログレコードのサウンドの素晴らしさを堪能できます。
近々、定番アンプにいたしますので、ご期待下さい。
最近、つくづく感じるのですが、まだまだ、A/D,D/A変換によるサウンドに独特の音調を感じます。デジタルサウンドは素晴らしいですが、上記のプロセスによる響きを感じます。テープサウンド、アナログレコードにも独特の音調があります。いろいろあるからオーディオは面白いのでしょう。
但し、デジタル変換を繰り返すデジタル・チャンネルデバイダの弱音時のサウンドの劣化を気になさる方がおられるようです。マスターズにおいて、チャンネルデバイダ発売以来、そのような意見が寄せられ、改めて、アナログ回路によるチャンネルデバイダを、クロスオーバー周波数を各チャンネルごとに独立して、自由にサウンドバランス調整すれば、デジタルデバイダサウンドよりも良好なサウンド品位になるような気がしております。
人数は多くはないと思われますが、マスターズのクロスオーバー周波数可変方式のチャンネルデバイダーのご注文は途切れません。
MASTERS AU-900Xシリーズにトランジスタ搭載・新型アンプ登場!
デバイスの違い
これまで、私自身、MOSFETに魅力を感じてきましたが、周囲の声を聞いてみると、“トランジスタサウンドはやや地味かも知れないけど、落ち着きのサウンド!”という声が少し気になってきました。
また、半導体デバイスの入手はますます厳しくなってきています。特に、昔ながらのTO-3タイプのパワートランジスタは、日本での生産が完了してから、すでに40年の年月が流れました。パワー半導体の構造として、メタルで密閉され、かつ内部に乾燥剤が封じ込まれたTO-3タイプは、湿気が入らず、樹脂モールドタイプよりも優れています。けれども、TO-3は見た通り、製造コストが掛かり、かつ、実装するためのヒートシンクへの取付構造が複雑で手間がかかります。
けれども、今でも、TO-3のトランジスタに魅力を感じているオーディオファンは存在するようです。
当社には、多くない在庫ですが、TO-3タイプがあります。従って、限定販売のかたちで、上記シリーズにトランジスタ搭載の新型アンプを発売することを計画しております。
試作検討に成功
昨年末から、トランジスタ搭載アンプに試作検討を継続して参りましたが、1月中旬、新製品として売り出すことができるパフォーマンスになりました。
確かに、出てくるサウンドは“落ち着き、おだやか、深み”があるように感じます。MOSFETのほうが同じ回路において、華やかな印象があります。
電気的性能は同じと言える高性能です。こうなると、少数キャリアで動作するトランジスタと多数キャリアで動作するMOSFETとの物性上の違いによるサウンドの違いは、理論的には説明が付きませんが、オーディオヒアリングでは感じ取れます。
限定発売する具体なアンプについて
まずはXカレント回路でのAU-900Xシリーズのなかで、パワートランジスタ搭載機種を発売します。
最初に搭載するTO-3パワートランジスタは、写真に示すように、サンケンの2SC1586/2SA909を採用します。このパワートランジスタは大型で、耐圧200V、ICMAX:15Aの容量があり、本来は100W級のパワーアンプに充分使えるデバイスですが、あえて20W以下のアンプに有り余るマージンを持って使います。パワートランジスタに詳しいWestRiverの川西氏の、評価高いパワートランジスタです。
いずれしろ、あたらしいMASTERSサウンドに興味を持ってくださる方は、どうぞ注目下さい。
なお、工房において、試作機での試聴は予約いただければできます。
いずれしろ、このデバイスの在庫が少ないので、尽きたときは次のTO-3型トランジスタを採用する予定です。
これまでのオーディオ用東芝MOSFET、2SK405,2SJ115搭載アンプの注文は継続して受付けて、製作致します。
参考
トランジスタはバイポーラー素子、MOSFETはユニポーラーと呼ばれます。トランスジスタはキャリア2個(ホール,電子)が関係し、ベース付近で再結合し、その弊害のために、高周波特性に限界があり、スイッチング電源にはトランジスタが使えません。MOSFETの世界です。
けれども、オーディオ周波数領域では、充分に使えて、MOSFETが登場した近年でも、オーディオアンプに今なお採用されていますが、生産はかなり縮小されている昨今です。
トランジスタ採用!Xカレント回路搭載プリメインアンプ“MASTERS AU-900X/TR”のイメージ
TO-3パワートランジスタ サンケン 2SC1586/2SA909