MCトランス入りフォノイコライザ“MASTERS PH-700/CUSTOM”
フォノイコライザ“MASTERS PH-700VTS”は、真空管整流電源によるトランジスタ回路(API2520)のフォノイコライザで、発売以来、好評をいただいております。
また、MCトランス“MASTERS MC-203”も同様、大変好評で、少なからずの台数実績になります。
最近、あるお方から、両者をまとめたらどうかというリクエストがあり、“それではやってみよう!”ということで、画像に示すような、MCトランスとフォノイコライザを一体搭載することに致しました。
そうなると、漏洩磁束を防ぐために、電源部は別筐体に独立させることにしました。
電源部とアンプ部とは、ある程度(60cmくらい)以上の距離を離せば、充分なS/H比が取れることも確認できました。
また、まとめることによって、接続するRCAケーブルも不要で、MCトランスとフォノイコライザとは最短距離で配線できました。
使い勝手は非常によく、どのようなカートリッジ(MM,DL103タイプ,テクニカタイプ,オルトフォンタイプ)にも対応できます。
そのサウンドは豊かで、暖かいサウンドで、瑞々しく、アナログレコードのサウンドの素晴らしさを堪能できます。
近々、定番アンプにいたしますので、ご期待下さい。
最近、つくづく感じるのですが、まだまだ、A/D,D/A変換によるサウンドに独特の音調を感じます。デジタルサウンドは素晴らしいですが、上記のプロセスによる響きを感じます。テープサウンド、アナログレコードにも独特の音調があります。いろいろあるからオーディオは面白いのでしょう。
但し、デジタル変換を繰り返すデジタル・チャンネルデバイダの弱音時のサウンドの劣化を気になさる方がおられるようです。マスターズにおいて、チャンネルデバイダ発売以来、そのような意見が寄せられ、改めて、アナログ回路によるチャンネルデバイダを、クロスオーバー周波数を各チャンネルごとに独立して、自由にサウンドバランス調整すれば、デジタルデバイダサウンドよりも良好なサウンド品位になるような気がしております。
人数は多くはないと思われますが、マスターズのクロスオーバー周波数可変方式のチャンネルデバイダーのご注文は途切れません。
最近、発売したMCトランス“MASTERS MC-203”が好評です。MCカートリッジは、相対的に大電流・小電圧特性ですので、MCカートリッジの特性を生かし、電流・電圧変換して、フォノイコライザを動作させることが合理的です。
この変換をおこなうのが、MCトランスです。トランスは、原理的にノイズを発生することがないので、S/N比の低下がありません。また、MCトランスの周波数特性はMCカートリッジのインピーダンスに対して、それよりも高いインピーダンスで受けると、低域周波数特性、超低域ひずみがさらに改善されます。さらにMCトランスが低い出力インピーダンスで送りだし、フォノイコライザが高いインピーダンスで受けると、周波数帯域は低域~超高域にまで広がります。MCトランスの設計は最大パワー伝送でなく、電流~電圧変換するものですから、インピーダンスマッチングを取ると、かえって狭帯域になってしまいます。インピーダンスマッチングは最大パワー(電力)を伝送する際には重要ですが、MCカートリッジの場合にはその考えはマッチしません。
さて、“MASTERS MC-203”では、78%のスーパーパーマロイコアを採用していることは、低ひずみをキープする意味からも重要です。それよりも、巻線の太さや、巻線数は、試作や試聴を繰り返す作業から得られたノウハウの世界です。
“MASTERS MC-203”は低インピーダンス(オルトフォンタイプ),中間インピーダンス(オーディオテクニカタイプ),高インピーダンスタイプ(デノン,EMTタイプ)がすべて使えるような設計になっています。
“MASTERS MC-203”では、どのインピーダンスでも、すべての巻線が動作するようなオートトランス式としております。この方式は従来の1次、2次とを分けて接続する方法とは違います(結線図参照)。
この方法の提唱者は故、金子英男(オーディオ評論家)さんでした。1970年代の後半、私はサンスイのプリメインアンプにMCトランスを搭載することを提案し、責任者の了解を貰い、仕様決定を任されました。
そこで、どのようなMCトランスにすべきかをタムラ製作所と相談し、担当のY・Yさんは、コア,コアサイズ,巻数等々、実に30種類以上の試作品を作ってくれました。
ある程度、数種類を選択して、金子さんにアドバイスを受けたところ、いろいろ聴いてみてから、「思い切ってオートトランス式にしてみないか」と提案されました。当時、私は、トランスの特性・設計には、それなりの知識・体験を持っていたので、オートトランスは、せいぜい昇圧比は3倍(10dB)くらいが限界と思っておりました。金子さんは、「1:30以上の昇圧でも理路論的に成り立つから、やってみて!」と言われ、その場でMCトランスの結線を変更して、オートトランス式結線にしてみました。すぐレコードを掛けて、オートトランス式MCトランスのサウンドを聴くことになりました。
その結果は、従来の伝統的な接続よりもワイドレンジ感があり、特に、中高域の見通しがよく、切れ味が驚くほど改善されたように聴こえました。
但し、ヒアリング結果が良くとも、致命的な電気的な欠陥があるといけないので、会社に戻って特性チェックをしたところ、デメリットは見つからず、社内のヒアリング結果においても、“良好!”との感想が圧倒的だったので、サンスイ AU-D607Fシリーズ以降、搭載したMCトランスはオートトランス式結線となりました。
というような背景もあって、“MASTERS MC-203”はオートトランス式結線方式です。このような方式は、1次,2次間の巻線容量、リーケージ・インダクタンスの影響を受けなくなります。また、MCトランスの入力タップ、例えば、低インピーダンス(LOW),中間インピーダンス(MID)巻線は従来の接続方法ですと、巻線が一部、遊ぶことになり、巻線間の結合が悪化します。オートトランス式はそのようなデメリットは生じません。
“MASTERS MC-203”は、しなやかに、伸びやかに、切れ味よく、音場は広がり、低域の迫力も充分で、コーラスのような実演でも混変調を起こしやすいような音源も分解能良好で聴くことができます(例えば、ベートーベンの第九、ベルディの“レクイエム”とか)。
さらに、女性ボーカルも魅力です。本当に久しぶりに、アナログレコードを聴き続けてしまいました。私の持っている代表的MCカートリッジは、オルトフォン MCローマン,SUPEX SD-909,FR、DL103,テクニカ AT33シリーズ等です。
MCトランスは微少信号を扱うので、設置場所の選択にはご留意ください。MCトランスを紙の箱等に入れて動かしてみると、最適の場所が見つかります。特に、電源トランスの近辺、電源トランスから導かれた誘導磁界のあるところは、なるべく避けて下さい。もちろん、電磁シールド・静電シールドを施してあるので、実用上、充分なパフォーマンスは得られますが、できるだけベター,ベストに近いかたちで使っていただければ、最高のサウンドが聴けるはずです。
【従来の結線方法】
【新オートトランス結線方法】
このところ、ピュアサウンドのトランス式パッシブプリアンプを聴いてから100V電源で動作するプリアンプを聴くと、ピュアなサウンドではトランス式パッシブプリアンプに及ばないにしても、半導体プリアンプでも、電源部に考慮を払えばかなりのレベルのサウンドになることを実感するようになりました。
その例としては、他に例をみない(オンリーワンと思います)真空管整流方式を採用したフォノイコライザーアンプ“MASTERS PH-700VTS”です。
真空管整流方式は、半導体ダイオードのような短時間整流電流が逆流してパルスノイズを発生することがなく、スムーズに整流する性能です。
PH-700VTSでは、充分な電流容量(150mA以上)を有する整流管を2本搭載して、電源部が大きく重くなりますが、そのおかげで、とてもなめらかで表情豊かなアナログレコードサウンドが聴けます。特に、MCトランス“MASTERS MC-203”と組み合わせると、しなやかで表情豊かなサウンドが聴けます。
MC-203は、オルトフォン、テクニカ、デノン等あらゆるカートリッジに対してインピーダンスマッチングを取って対応致します。
なお、日本で有数なアナログオーディオショップ、サウンドハイツさん(千葉県市原市)で視聴できます。
参考解説として、半導体プリアンプでは、通常は安定化電源を搭載しますが、流れる電流がほぼ一定なプリアンプでは、あえて安定化電源を搭載する必要がありません。むしろ、安定化電源が不安定動作した場合、オーディオ信号出力に発振状況に似たノイズが混入して、良くありません。
もっとも、バッテリー電源による半導体プリアンプは、リップルゼロ・ノイズゼロなので、内部抵抗が低いバッテリーで動作させれば、素晴らしいサウンドになります。(但し、内部抵抗が大きく、すぐに電圧降下し容量の小さい乾電池はだめです。)