アンプに関して言えば、皆様の関心はアンプ機構部品に多いです。
このことはオーディオ誌で取り上げられているからと思われます。
オーディオライター、オーディオ評論家は、その効果がはっきりしなくとも、何か記事を書かなくてはなりません。
今から40年前、故 長岡鉄男さんは、100V電源の極性による音質差異を指摘しました。
このことは、電源トランスの1次巻線の巻き始め、巻き終わりが変わることによって、1次巻線からの対アース容量がかわることです。
オーディオアンプにとって、ひずみ等の電気特性は変化ありません。
けれども、オーディオメーカーは、電源ケーブルに極性を表示することによって、評論家の指摘に追随しました。
当時、メーカーエンジニアたちは、特にヒアリングすることなく、オーディオ誌に取り上げられれば売れると言われて、そうしました。別に、悪いことではありません!
その後、オーディオマニア・クラフトマニアの皆さんは、シャーシ交流電位を測定して、低いほうが極性が合っているとして、ある程度常識になりましたが、心あるメーカーは、聴いてみて気に入ったほうでお使いくださいと、記述している良心的な取説もあります。
(熱心なクラフトアンプマニアの方々はこの現象を信じている方が少なくありません。)
参考になりますが、医療用の電源トランスはコアに厚い絶縁紙を巻いて、巻線のストレーキャパシティをゼロになるくらい小さくしています。患者に万が一、静電的に感電しないように。この仕様の電源トランスを使うと、長岡鉄男さんの指摘する現象はなくなると言っても良いでしょう。具体的には橋本電気が納入していた医療用トランスはそのようなノウハウが詰め込まれていたようです。
次に、電源ケーブルが35年前くらいから、ACインレット付きとなりました。この傾向は海外電気機器ではこうしたほうが取り扱いに便利だからです。
この機会を見逃さなかったのがアクセサリー関係業者です。
彼等は、すぐに特別の電源ケーブルを作りました。
さて、アンプの電源ケーブルは180cm程度です。一方、100V家庭内配線はFケーブルで、柱状トランスから20m程度あります。一方、電源トランスの1次巻線は、100Wクラスのアンプでは20m程度あります。それぞれの銅線純度は4N程度です。
180cmmの電源ケーブルに6N、7Nとか、ハイブリッド銅線とか、特殊被覆材料を採用して高額なケーブルを作って、販売して、利益を得て活動しており、今やオーディオ産業において、欠かさない分野になっています。
私は、特にこだわらす、許容電流に余裕のあるケーブルなら問題ないと思います。
アンプのアイドリング時の消費電力は10W~30W程度(純Aクラスアンプを除き)です。大きな音になったところでも、平均消費電力は50Wも超えません。純Aクラスアンプは常に最大出力に対応する電力を消費するので、地球温暖化にとっては有害(特に夏季は有害、冬は暖房になるが、)です。
Aクラス動作にこだわるなら、アンプの負荷抵抗を上げて、Aクラスに対応する方式のほうが賢明と思います。
純Aクラスアンプでも、負荷抵抗が下がると(例えば4Ω)、ABクラスに変動せざるを得ません。消費電力は下がりません。
スピーカー端子
1960年代のオーディオアンプの出力端子は、みじめなほど小型で、細いスピーカーケーブルは、小型端子でやっと接続できる代物でした。
これを飛躍的に改善したのが、JBLです。JBLスピーカーの入力端子はスプリング入り構造となって、端子を押して、孔にスピーカーケーブルを入れれば、あとはスプリングの残留応力で固定できるものでした。
日本メーカーはすぐさま取り入れ、スピーカーの入力端子、アンプの出力端子はそうなりました。
さらに、1970年代に入ると、アンプ出力端子はねじ止め構造のほうが確実という考えが支配的となり、部品メーカーが安価に2組用の出力端子を商品化しました。それからずっと、その構造は形が大きくなったにせよ、踏襲されました。
けれども、スピーカーケーブルが太く、純度の高い銅ケーブルに対応するには、やや見劣りがするようになりました。
その時期、アンプクラフトマニア用に立派なスピーカーケーブ端子が登場するようになりました。
特に、バナナ端子が使用できるので、スピーカーケーブルをそのように準備しておけば、バナナ端子を差し込めば接続できるようになったし、大型のYラグ端子でも対応できるようになりました。
まだ、オーディオメーカーは原価的にそこまで豪華にできないようです。
というのは、私を含めてメーカー出身エンジニアは、内部配線、プリント基板等を考慮すると充分と考えているからです(アキュフェーズ、LUX、マランツ等、等も同様)。
それほど豪華にしなくとも、充分な低い接触抵抗で、高いDFも実現できるからです。けれども、自分のアンプを格好よく、豪華に見えるようにしたいという欲求は理解できますので、マスターズでは、金メッキ、バナナプラグ対応端子が標準です。それ以上をご希望の場合は、お客様より支給下されば、対応するようになっております。
RCA端子
そもそも、RCA端子は今やなき名門ブランドRCAが開発した接続端子です。ホットから先に入ってしまう欠点があるにせよ、ホットの周りをグランド側でシールドされる工夫がされています。今なお、使われる理由が理解できるでしょう。
但し、メーカー向けのRCA端子は間隔が18mm程度しかなく、太いRCAケーブルが差しにくいです。マスターズアンプでは、間隔を充分に広げて対応しています。
整流回路
AC商用電源をトランス使って、アンプ電源電圧に対応して2次巻線AC電圧/取り出せる電流を設定して、半導体ダイオードにより整流するのが普通です。通常の半導体ダイオードは約1V程度の電圧降下があります。
また、ダイオードのON/OFFにより、電磁波ノイズが発生します。
このノイズは安全規格にひっかかるほどあり、電磁波吸収用コンデンサーの設置は必須です。
真空管整流では発生しません。
また、電圧降下が飛躍的に低いショットキーダイオードは整流効率がアップしますが、逆流する期間があり、考慮しておくことが必要です。
ファーストリカバリーダイオードは、100kHz近辺で整流するスイッチング電源に対応して開発されたもので、50/60Hz整流に採用しても、ほとんど意味がありません。
整流用コンデンサー
整流するためにリップル成分を吸収するコンデンサーは重要です。充分なリップル除去となると、アルミ電解コンがメインとなります。
近年のアルミ箔エッチング技術の進歩は著しく、近年の電解コンサイズはかつての数分の一程度のサイズです。このように電気分解作用は表面積が大きいほど、静電容量がとれるのです。但し、残留抵抗成分は小さくはならず、増大します。電源インピーダンスが下がらないことになり、アンプ回路動作の安定性にはマイナスです。
一方、昔ながらのエッチングしない箔(プレーン箔)のケミコンは、もはや市販されてはおりません。静電容量がとれないからです。
けれども、電解コンにプレーン箔電解コンデンサーにパラレル接続すると、内部抵抗が低く、容量の取れる整流コンデンサー回路が成立します。
もはや、ブロックタイプのケミコンより、上記のようなパラレル接続方法のほうが結果的に良好な音質になるようです。マスターズアンプではたまたま、プレーン箔ケミコンをエルナーに試作してもらったものを在庫しているので、そうしています。そして、さらに高周波対応として、フィルムコンもパラレル接続しています。
CR部品
アンプ回路の主要受動部品はコンデンサーと抵抗です。
回路定数が決まったら、次はどのような部品を選択するかになります。
この作業は、交換して、ヒアリングを繰り返すのが一般的です。アンプメーカーの設計者間では、“謙虚”に、“卑下”されての意味を含んで、“チェンジニア”と呼ばれていることがあります。
そうは言っても、アンプクラフトマニアにとっては、部品選択・交換は興味あることで、今なお、重大関心事です。
かつて、評論家 故 金子英男さんは部品知識に詳しく、部品メーカーとかアンプメーカーの関係者が、開発を委託した関係になっていた時期がありました。
特に、ニチコン、ニッケミ、エルナー、日立コンの電解コンメーカーは、そのような関係になっていたこと(数年)がありました。
フィルムメーカーも2~3社、頼った時期があり、この結果、Vコン、ラムダコンなどが生まれました。
理研抵抗社は抵抗にリード金メッキ等の工夫を加えて、RM抵抗が生まれました。
金子英男さんは毎年、バイロイト音楽祭に行ったり、N響の定期会員になっていたりして、聴覚を研ぎ澄ましていました。
ここ20年、このようなことは無くなったのは、それほどオーディオアンプが売れなくなったからです。従って、各メーカーが採用しているCRは特殊なものではなく、いわゆる、一般品です。
ケミコンメーカーにしても、カスタムコンを依頼されても、数量が少ないので、外装紙にカスタム印字する程度しか対応できないです。
その点では、アンプクラフトファンのほうが、気に入ったり良いと思った部品を、それら販売している専門店から入手して楽しむことができます。
とうとうディスコンとなったSEコン(@¥2,000くらいする)はその最たる部品でしょう。
マスターズアンプでは、上述したプレーン箔ケミコンの並列使いほか、特別な部品は採用していないです。
マスターズアンプでは、位相補償用小容量コンデンサーは2個。ステレオアンプしか使うところがないので、コストアップにはなりません。オープンループ特性の発振安定度が高く、従って、NFB量が少ないからです。
配線材
電源ケーブル、スピーカーケーブルの高級化が広がっています。
それでは、アンプ内の配線材をアンプメーカーはどう考えているのでしょうか?
オーディオアンプはプリント基板化が進んでいるので、配線は基板―端子間が主要と言えましょう。特に、例えば、アキュフェーズアンプに特別なケーブルを採用したとの噂は聞いたことはありません。
アンプ内の接続用配線には、組立工数を減らすためにマルチケーブルを採用して、ケーブルのハンダ付けをしないで端子化することもおこなわれます。
マスターズアンプでは、配線ケーブルは錫メッキなしの被覆より線を採用しています。特に個性(くせ)がなく、これで充分と思います。
まれに、内部配線材にリクエストする方がおられますが、支給下されば、採用できる箇所には採用します。音質がどう変化したかは、コメントしません。
ここまで、拙文をお読みくださり、ありがとうございます。