店長が日々感じたことを、オーディオエッセイ風に綴ります。開発日誌、コラムなど、様々な内容を情報発信しています。

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最近修理したサンスイアンプについて

2011年12月後半から修理依頼が多くなっておりますが、できるだけ迅速な修理を心がけております。このところ、サンスイアンプの修理が連続して、サンスイアンプのパーフォマンスを改めて味わっている状態です。
そこで、その感想を記します。

  1. SANSUI AU-999

    このアンプは、私が入社前に製品になっていたサンスイのトップ・プリメインアンプでした。新米社員の私がスピーカ設計に携わったとき、ヒアリング検討に常用していたアンプでした。当時は夢中でスピーカ設計していたものですから、AU-999の音質そのものは深く考えませんでした。そのとき思ったのは、AU-999って“良いネーミングだな!”ということです。確か、銀河鉄道999のアニメはまだ登場していなかった時期と思います。ひょっとして、作者、松本零士さんは影響を受けたのではないかと思ってしまうほどです。AU-999は、回路構成こそ純コンプリメンタリーではなく準コン構成でしたし、以後のアンプほど音質に考慮が払われていなかった時代でした。すなわち、サウンドの決め手は、80%以上はスピーカで決まってしまい、あとはトランジスタアンプか真空管アンプかという、まだ、草分け時代と言えるものでした。
    改めて、修理したAU-999のサウンドを聴いてみると、少し細身ですがピュアで鮮明で、見通しの良いサウンドです。確かに、低域の押しはもう少しあっても良いな!という感じはありますが、まだまだ充分聴けるサウンドです。

  2. SANSUI AU-607

    昨年のTV番組の中で、このアンプが栄光のアンプとして紹介されていました。S51秋に発売でしたから、もう随分時間が経ったのですね。この修理依頼アンプは、気持ちが良いほど内部が綺麗で、おそらく、アンプ部分を洗浄剤できれいにしたものと思われます。古くなったケミコン、抵抗、プリント基板の裏側のハンダ付けをやり直したりして、修理は完了しました。そして、エージングを兼ねて聴いてみると、見事にそのサウンドはAU-999とは異なるサウンドです。65W×2のパワーでありながら迫力も申し分なく、中低域の再生も充分で、音楽成分の中核をしっかりと再生しています。そして清らかで、特にフォノ再生でのしっとりしたサウンドには驚きました。

  3. SANSUI AU-707

    AU-607の兄貴分のアンプです。割安感がAU-607のほうが大きかったせいか、AU-607に売上台数は及びませんでしたが、良く売れて評判も良かったアンプでした。今回修理に入ってきたAU-707は、途中ロットから一部手直しを加えたもので、ケミコン、一部、グランド処理が変更されていました。AU-707とは異なった味わいというか、パワフルです。それに鮮明さが加わった感じです。とても素敵なサウンドと感じました。このように、S51年秋に発売されたアンプも修理すれば、まだまだ使えます。修理箇所は片chのパワーアンプが不具合で、音が出ません。パワーアンプユニットを外して、分解して、回路をあたっていくと、3段目の増幅段のエミッタ抵抗が切れていました。これは当時、安全のためヒューズ抵抗を入れたのが、長い年月を経て切れていったと思われます。オーディオ各社とも、S60年代に入ってからはヒューズ抵抗使用をやめ、不燃抵抗、金属皮膜抵抗にしたために、以後の故障はずっと少なくなりました。あと、回路中のダイオードが不具合でした。これで動作は復帰しましたが、念のためプリント基板の半田付けをやり直し、一部ケミコンを交換。さらにアイドリング調整、DCオフセット用の半固定ボリウムを清掃して、動作の確実を増して、あとは測定してみましたが、昨今のアンプとほとんど遜色なく、当時のアンプ回路技術は高かったとも言えます。

  4. SANSUI AU-D707EXTRA

    このアンプは、ダイアモンド差動回路搭載したDシリーズの次に登場した、スーパーフィードフォワード方式のアンプでした。フィードフォワード帯域は高域部分でおこなうので、高域周波数のひずみ率はかなり良好になり、確か、0.003%(20kHz)をスペックできたと思います。現在のアンプは、この数字には及びません。切れの良いサウンドはなかなかであり、素直なサウンドには好感が持てました。パワフルさも兼ね備え、なかなかのアンプでした。このアンプの故障部分は、片chの音が出ず、いろいろ調べてみると、プリドライブ段の電源がうまく通電されていず、ここの電源部分を分解してすべてのケミコンを交換、さらにプリント基板のハンダ付けをやり直しました。そのほかの部品も交換して治りましたが、当時、ある程度の大きなケミコンは振動してとれないようにゴム系の接着剤で固定しましたが、長い年月で接着剤が炭化して、絶縁不良を起こしかけていました。これらをきれいに取り、プリント基板のパターン面をクリーンにしました。それこそ、こんなに長く使ってくれるというのは、想定外でした。何事も人間のやることに完全なものはなく、謙虚な思考が必要と感じました。原発の安全性も、想定外も考えていれば悲惨なことにならなかった。アンプの場合はこれで済みますが、根幹に関わる技術は、何十にも及ぶ安全策が必要です。

  5. SANSUI AU-D907XDecade

    サンスイが最後まで採用を続けたXバランス回路搭載アンプです。故障症状はプロテクションが動作して、SPリレーがONせず、音が出ない状態でした。最悪のケースを考えて、パワートランジスタをはずし、チェックしましたが、壊れていない、健在でした。次は、思い切ってプリドライブ段のアンプ基板を外してこれをチェックしたところ、DCオフセット調整用半固定ボリウムが断線というか、オープンになっていました。この部品を2個交換し、他の半固定ボリウムはチェックしてOKでした。また、念のため初段のデユアルFETは交換しました。また、デカップル・ケミコンを固定している接着剤がやはり炭化しており、これをクリーンにして、ケミコンを交換し、プリドライブ基板のハンダ付けをやり直し、取り付けて、DCバランスをL/R、対グランド間を調整していくと、アンプはうそを付くことなく、リレーは動作して、きれいな波形はオシロスコープに出てきました。ここまできたらもう一息です。オーディオアナライザーでひずみを測定して、最適点に調整して、直ってきました。Xバランス回路の場合、トータル4台のパワーアンプを搭載しているようなかたちなので、複雑で修理は大変ですが、スピーカ端子両側からバランスドライブするパワフルさは他のアンプと異なり、見事なドライブの能力を感じました。

まだサンスイアンプは、修理すれば充分優れた品位のサウンドが聴けると思います。と言って、言い過ぎると新しいアンプが売れなくなるかな?と心配がよぎります。修理においては、交換部品がもうないので代替部品でOKな場合は良いですが、それも無理な場合(例えば、6連ボリュームとか)、それがガリ音を出したら、修理は分解クリーニングしか手がなく、これは大変です。
いずれにしても、粗大ゴミになるよりは修理して使うのはエコですし、その水準は大手の現行ブランド品に電気特性、サウンド品位ともに、遜色は感じません。オーディオ全盛時、当時のエンジニアの心意気がアンプに現れているような気が致します。

それでは、ユニークなオーディオ製品を作り続けるマスターズブランドをよろしくお願い致します。
なお、半世紀にわたる長いお付き合いの川西さん主宰のWest-Riverアンプの製作も併せてマスターズでおこなっております。質問、お問い合わせ等、お気軽にどうぞ!


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