店長が日々感じたことを、オーディオエッセイ風に綴ります。開発日誌、コラムなど、様々な内容を情報発信しています。

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新開発の真空管整流電源によるトランジスタ・フォノEQアンプ

  1. 検討のきっかけ

    トランジスタアンプに限らず真空管アンプでも、整流デバイスはほとんどがシリコンダイオードと決まっている昨今です。整流ダイオードは安価であるし、場所もとらないし、壊れることも非常に少ない。寿命はほとんど半永久的といえるでしょう。
    けれども、オーディオアンプというのは、電源から供給されたDC(直流)をコントロールする電極(ベース,ゲート,グリッド)に加えられた信号によって変調され、できるだけ忠実な内容でアンプからスピーカに加えられ、スピーカはフレミングの左手の法則で動き、音が出ます。スピーカの振動が止まろうとするときは逆起電力を生じて(フレミングの右手の法則)アンプに電力を戻します。そのような原理原則ですから、オーディオアンプの電源の品位は非常に重要です。
    昨今では、商用電源のひずみ、電磁波の混入現象で、整流した電源の質が悪化しているのは、皆さんご承知のとおりです。今回の開発は、その前に小電流の整流デバイスとして、理想的な真空管(整流管)を半導体アンプに採用したらどうなるかの興味・探究心でやってみました。ダイオードはその原理上、交流を加えて整流しようとすると、加わる電流が電源周波数で反転変化するとき、必ず反対の向きに流れる性質があり、その瞬間には大きなパルスノイズを発生します。このノイズは安全規格をクリアできないほどの大きさがあります。そのため、反対に流れる時間が短くなるファーストリカバリー・ダイオードなどが使われますが、それでもそのノイズを吸収するコンデンサは不可欠になります。また、そう対策してノイズが減ったとしても、微視的に考えれば、整流された電流の質がスムーズではありません。そのことに注目して、あえて、ヒーター電力がいるし内部抵抗の大きな整流管で小信号を取り扱うオーディオアンプ、とりわけ、フォノイコライザーに応用してみました。おそらく、このような試みは大げさに言えば、世界初と言えましょう。

  2. 試作回路

    回路構成は、図に示すように、整流管、それもできるだけスペースを食わない6×4をダイオードに見立てて、倍電圧整流方式で±15Vを得ることにしました。倍電圧整流ですから、6×4はどうしても2本は必要です。ヒータートランスも必要です。従って、半導体ダイオードよりもスペースは食いますし、コストもかかります。
    本当に実現できるかを試作ケースで作ってみました。画像でご覧のように見栄えはまったく良くないですが、電源回路の電気的性能はばっちりでした。
    フォノイコライザーアンプは、1970年代オーディオ全盛時代のアメリカで評判高いAPIモジュール回路を、当社なりに改良を加えた回路ユニットを採用してみました。これまでこの回路でフォノイコライザーを製品化したことがあるので、購入されたユーザーさんはそのからっとした切れ味良い、アメリカンサウンドに魅力を感じられたことでしょう。

  3. ヒアリング

    試作が出来上がって、恐る恐る、わくわくする気持ちを抑えながらレコードを掛けてみました。
    まずは、ビル・エヴァンストリオの演奏。ビル・エヴァンスのピアノサウンドがきらきら輝いて聴こえます。ベースサウンドが深く聴覚を刺激します。
    次に、アメリカRCAの異色クラシック、ルネ・レイポビッツ指揮/ロイヤルフィルの“展覧会の絵”を聴いてみました。その激しい迫力の表現、また、弱音時の“しっとりさ”は、大したものと感激してしまいました。亡くなった上杉さんが“製作者の音質コメントほど、あてにならないものはない!”と言われていましたが、一応わたしはプロの端くれですので、努めて冷静に客観的に聴いております。また、出来上がった翌日聴いてみると、がっかりすることを体験しています。そこで、今朝改めて聴いてみても、その判断には間違いがなく、失望はありませんでした。むしろ、新製品にしてみようという意欲に駆られました。
    その結果を名デザイナー大友氏に連絡したところ、それでは、シャーシ・ケースデザインをやってやろうと言ってくれました。
    オーディオ製品と言えど、世界経済・大震災で厳しいなかで、なるべく経済的負担を軽くしようと思っておりますので、それなりにお求め易い価格で新製品をしたいと思っております。まだまだ、アナログ・レコードは素敵です。
    さらに、この方式でライン入力プリアンプにしたいというご希望にもお応えできますので、よろしくお願い致します。

真空管整流電源によるトランジスタ・フォノEQアンプ

真空管整流電源によるトランジスタ・フォノEQアンプ


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