1970年代の後半から、スイッチメーカーは、ロータリースイッチの製造に消極的になってきました。その理由は、アンプ製造側からは、スペースを食う、手配線になるので組立工数が掛かる、というような理由です。
そこで、スイッチメーカーは、ロータリースイッチの配線端子をプリント基板対応にしたりしました。ベテランのオーディオファンの方なら、ある時期、大型ロータリースイッチの配線端子がプリント基板に取り付けられる方式にしたものを見たことがあるでしょう。けれども、そのような対応は長続きしませんでした。
そこで、スイッチメーカーは、スライドスイッチをロータリースイッチ風にすることを考案しました。いわゆるスライドロータリースイッチです。回転フィーリングは軽くなっていましたが、接点はスライドスイッチですから、それなりの性能であることは仕方ありませんでした。
そこで、アンプメーカーは、入力切替等はプッシュスイッチにすることにして、段々とプッシュスイッチで入力を切り替えることが一般的になってきました。さらに、近年のようにデジタル化が進むと、ロータリーエンコーダで切り替えるアンプも増えてきました。
一方、やはり、昔の測定器、特にオシロスコープに使われたロータリースイッチのような感触を欲しい方がいらっしゃることは確かです。超高級機には、ロータリースイッチを採用しているところがありますが、これらを製造していた岩崎通信機や富士通は製造を終了しております。近年の測定器もロータリースイッチを使わなくなってきたからです。
一方、大好評をいただいているパッシブプリアンプのATT切替機構は、ロータリースイッチでなければ製品として成り立たないのです。23接点という多接点のロータリースイッチは、接触の確かさ、切替・回転フィーリングのスムーズさが重要です。
MASTERSのパッシブプリアンプ“MASTERS CA-777S”,“MASTERS CA-999FBS”は、製品化にあたっては、いろいろ検討してみましたが、知る人ぞ知る!セイデンのロータリースイッチを採用しております。その回転フィーリングはすばらしく、スムーズに切り替わってくれます。電気的接触もすばらしく確実です。岩崎通信機、富士通の測定器用高級ロータリースイッチよりも圧倒的に素晴らしいのです。セイデンスイッチの価格は、それら測定器用よりも高価であるから、当たり前といえるかもしれないですが、私の知っているところでは、おそらく世界一の性能と思います。
どうしてセイデンスイッチは、素晴らしいスイッチが実現できるのか?に、ポジティブな疑問を持ち、お会いしたことはないのですが、セイデン社代表取締役のFさんにTELして伺ってみました。Fさんは、セイデンのスイッチが製品として登場してきた経緯について、控えめな口調で、次のように語ってくれました。
その後、Fさんが接触抵抗の安定性・耐久性に加え、操作感触・導体素材にこだわって改良を加えた製品が、現在のオーディオ用ロータリースイッチ(1985年製発売開始)であるといいます。
“どうして、オーディオ用に製品化したのですか?”と尋ねると、“オーディオは高校生の頃から好きで、当時、YL音響の故吉村社長にかわいがってもらって、高校生で、YLのホーンスピーカーを使っていました!”このことは、私よりも早熟オーディオマニアで、筋金入りと思います。
セイデンは決して大きな会社ではなく、どちらかと言えば小規模な会社と思えます。その点については、“たくさんの注文はないし、それほど儲かる仕事でもないです。”とFさんは謙虚に語ってくれました。
今は、数は多くないが“こだわりのハイエンドオーディオブランドのすべてから”と言って良いほど、注文がきているし、また、プロ用にも採用されているということで、タムラの放送局・ホール用コンソールにはセイデンスイッチが使われているといいます。
また、セイデンスイッチを製造するには、マニュアル化すれば製造できるかというと絶対そうでなく、これまでの工夫や実績を踏まえた“ノウハウ”が必要であるとのことでした。
今後、世界一といえるセイデンスイッチの製造ノウハウを、弟子?の方に、やさしくはないが伝承しているとのことです。ジャパンメイドの素晴らしさが継続されることを願っています。MASTERSのパッシブプリアンプもセイデンスイッチがある限り、これからも先、安心して製作が継続でますし、新製品開発にも取り組めます。
今や、採算から、海外、とりわけ中国に生産拠点を移動することがほとんどになってきましたが、このようなノウハウを失っては日本の将来はありません。これからの日本は高付加価値で生き残るべきです。
【セイデン 2回路23接点ロータリースイッチ】