パーマロイ出力トランス搭載アンプのマイナーチェンジ
BA-218FBG/Pはパーマロイトランス搭載で大変好評、特に、そのサウンド評価が高いです。これまで、限定販売しておりましたが、予定数を販売し、いったん、このアンプの販売は終了と考えておりました。けれども、大好評、そして、このアンプの高音質は他に例のないサウンドです。そこで、急遽、新規トランスケースの入手とパーマロイコアの入手に努めた結果、引き続き、BA-218FBG/Pの販売は継続できることになりました。
小型パーマロイトランスの開発
現在、パーマロイコア採用の出力トランスはMASTERSのBA-218FBG/Pに搭載したほかはありません。かつて、2001年当時、タムラにおいてパ-マロイコア採用の出力トランス(F7021)が販売されていました。当時のオーディオ誌を読むと、“空恐ろしいほどのリアリティ!”、音楽の表情が繊細かつ大胆で!”、“大編成のオケが怒涛のごとく響く!”と評価されていました。残念ながら、高い評価に関わらず、あまり評判にならず、いつしか販売終了になってしまいました。
私は当時、山水OBの方が活躍されていた阪東電機に、シングル仕様でパーマロイコア採用の出力トランスを4個、作って貰いました。でき上がってきた特注トランスは、10W(40Hz)の容量なのに驚くほどの大型になっていました。また、高価で、これには参りました。ここで悟ったことは、高い磁束密度を取れないパーマロイコアは、DC磁化するシングル用出力トランスにはCP的にも向いていないことでした。具体的には、300B、2A3のシングルアンプを搭載して、2台切りで終わってしまいました。
それから、私はMASTERSのMOSFETバランスアンプのほうに傾注したので、真空管バランス増幅アンプとして、橋本電気に特注したバランスNFB巻線付き、オリエントコアの出力トランスBA-218FB/OSはパワフルで情報力が多く好評でこれまで、かなりの台数の製作実績で推移しています。
その後のパーマロイ出力トランス啓発の経緯は、これまでのブログや製品紹介文で記述しています。
パ-マロイコアは高価ですので、何とか小型化して、お買い求めいただきやすい金額でパーマロイトランスを出来ないものかと考えました。(実はこれまで、80Ω:8Ωのマッチングトランスとして、カスタムトランスとして、MOSFETバランス増幅アンプ搭載して、好結果を得ていました。)
パーマロイコアは高価なので、資金的事情で、ある程度の重量でしか入手できない経営状態です。そして、在庫負担にならないようにすることも注意点です。
そこで、採用するコアサイズは使用量がある程度見込めるコアを採用することにしました。それには、パッシブプリアンプに採用しているコアサイズとして、試作検討することにしました。
さて、少し分かりにくくなりますが、我慢して、このトランス基本数式を眺めてください。
N1=(4.44×E×10の8乗)÷(B×D×F)
N1:1次巻き数、E:取り扱う最大電圧、B:トランス励磁磁束密度、F:印加される最低周波数
この数式から読み取れることは、パーマロイ系コアはオリエントコアほど大きな磁束密度がとれないことです。オリエントコアの1/4程度です。従って、パーマロイ系コアを採用すると、パワーを取り出すことがオリエントコアに比べ不利になります。それでなくともパーマロイ系コアは高価ですから、真空管アンプの出力トランスには採用が難しくなったのでしょう。通信用トランスやMCトランスでは取り扱う電力が小さいですから、低ひずみのパーマロイ系コアが採用できたのです。(例外として、かつて、一部のウエスタンエレクトリックの業務用真空管パワーアンプには音質優先のため、パーマロイコアが出力トランスに採用されていました。)
さて、話を戻しますと、このコアで扱えるパワーは3W程度を目標としました。3Wというと小パワーと思われるでしょうが、88dB/W程度のスピーカーならば、ガンガン近所迷惑になる音量になります。
試行錯誤を重ねてたどり着いたのが、次のようなものです。
- 巻けるだけ1次巻線数を増やすことで、扱える最大電力を増やすとともにひずみ低減設計としました。(例としてLUXのOY型トランスはこの方向の設計で、30W容量にもかかわらず1次巻線はφ0.16で他メーカーよりたくさん捲き、最大磁束密度を下げました。ただ、30年後、1次巻線の断線が頻発したのは仕方ないことでした。OY型トランスの優秀な音質は現在でも高い評価です。)
- 2次巻線はバランス増幅に適合するとともに4パラレル方式としました。
- 結果的に1次インピーダンスは15kΩ程度となり、採用する3極管接続真空管のひずみが少なくなるようにしました。
そして、タムラOBのトランス達人Y・Yさんに作っていただき、このトランスを搭載したパワーアンプを写真に示します。
電気的特性とその音質
製作したアンプの真空管構成は6V6GTpp+5963+ECC81として、無帰還(NON NFB)とした。取り出せたパワーは3W+3Wで、音量は充分取れました。周波数特性は20-100kHz(-1.5dB以下)とワイドレンジです。ひずみ特性も100Hz、1kHz、10kHzともに良好で、かつ残留ノイズも無帰還にもかかわらず、0.5mV以下に収まりました。
次はヒアリングです。スピーカーは相変わらずTANNOYアーデン(アルニコ仕様)です。ヒアリングに使用した音源“ステレオ”誌の付録のCD(ジャズ、ギターソロ)のサウンドが素晴らしく、リアルなので最近よく使います。
オーディオ評論家として活躍の石田善之さんが録音を担当したもので、マイク選択のセンス、セット位置が素晴らしいせいか、他のメジャーCDの音源とは異なるリアルさです。おそらく、これらの楽器を至近距離で聴いたら、このようなサウンドになることは過去の体験で味わっています。
まず、スタートのブラスセクションの浸透的な響き、瑞々しいサウンドに引き込まれました。それに絡んでくるドラムス、ピアノとの混然一体となるサウンドのなかに各楽器の生っぽい響きは心身を揺さぶりました。おそらく、自己陶酔、達成感による要素もあると思いますが、明確に、これまでの真空管アンプサウンドと違うのは事実です。
これからの製品化について
3Wでも十分な音量が取れて、かつ、お買い求めいただき易い価格のバランス増幅真空管アンプを、近々発表することを予定しています。
パーマロイコア採用の小型出力トランス