CDや配信によって、アナログレコードは絶滅すると言う予測が定説でした。
1982年以後、カートリッジメーカーは次々と姿を消し、DJ用MMカートリッジがあるくらいでした。
しかし近年、欧米を中心として、アナログレコードの評価が見直されてきました。
30年以上の月日が過ぎ、CDデジタルサウンドは問題があり、イマイチの欲求不満が残り、今に至りました。
そうは言っても、アナログレコードの販売数はCDより1桁小さい。
むしろ、中古レコードが見直されています。
ご存じのように、アナログレコードはオーディオ技術的にはいろいろ制約、限界があります。
まず、逆位相成分はカッターが縦振動になるので、それほど大きな信号は受け付けないです。
カッティグマシンにはリミッターが入っています。
従って、アナログレコードはマスター信号に対して、忠実な再生に限界があり、カートリッジのセパレーション性能も25dB程度が限度です。
アナログレコードは広がりが不足しているともいえるでしょう。
また、レコード内側の線速度が不足しますから、周波数特性のハイ落ちはある程度仕方がありません。
こうなると、CDのほうが圧倒的に優れていると言えることになります。
そうして、アナログレコードはCD登場以降、駆逐、消滅するはずであったのに、近年見直されているのはなぜでしょう?
やはり、アナログ→デジタル→アナログの変換にが問題があるからでしょう。
特に、ダイレクトカットのアナログレコードを聴くと、もう、もう、CDは及ばない。
対抗できるのは、2トラ38テープシステムでしょう。けれども、このシステムは量産が困難で、また、再生時の作業が面倒だし、常にメンテナンスする必要があります。
そんなわけで、アナログレコードを楽しむことは時代錯誤でもないし、興味ある趣味と思うべきです。
私としては、カートリッジをはじめとする製品が高価すぎることには大きな不満があります。
特に、MCカートリッジしかりです。
フォノイコライザーアンプは大変割安に提供されております。
皆様、いろいろなやり方でオーディオを楽しんで下さい。
オープンリールデッキと関わり合い
私のオープンデッキの歴史は古く、不満、不具合の期間も長かったです。
始めは、21才頃、当時、テープレコーダー研究会という組み立てデッキメーカーのような組織があって、都心でオープンデッキを注文製作していました。
略称としてTRKと呼んでいました。当時の初任給¥2万程度の時代、¥20万以上の販価でした。
その内容はAMPEX アイドラードライブデッキのデッドコピーというべきものでした。モデル名は339(さんざん苦労すると言う意味)でした。
私はバイトでせっせと積み立て、ようやく、入手することができました。
当時は宅配などなかった時代ですから、電車と徒歩で、製造所まで取りに行きました。そのメカは30kg近くあり、重かったですが、若さだったのでしょう、家まで持ってきました。
さて、そうなっても、メカだけで、録再アンプは自作しなければなりません。当初は、テープを回してみるだけの日々でした。
そうこうしているうちに、タムラに就職、時間を見つけては、録再アンプの製作に励みましたが、なかなかできない。
タムラを退社して、母校に戻って、音響研究用にオープンデッキが必要になりましたが、研究用には間に合わず、完成品を買うはめになりました。
当時は、奨学金が支給されていたので、何とか工面してTEAC 4000Sを購入し、4トラック、19cmで音響実験に使い、そのあとはテープミュージックソースを楽しむ程度でした。
そうして、サンスイ入社、スピーカー設計部で設計業務に励みましたが、社内にはデッキ自作研究者がけっこういて、独自の方式(テンション・サーボ)を設計できてしまう方々の仲間に入れて貰い、
いろいろと学ばせていただきました。
当時はオーディオがこれから花開く時期、社内は活気に溢れ、経営陣もエンジニアの自主性には大目に見てくれた時代でした。
サンスイ主催のコンサートが頻繁に開かれ、デッキ愛好家グループはコンサート録音をしてしまうこともやっていました。
私は大いに刺激を受け、TRK339がようやく4年がかりで動くようになりました。
さらにオープンデッキ・ブームは突き進んでいく結末
もちろん、LPレコード再生がオーディオ道楽のメインでしたが、それを上回る音質を得るには、レコード会社が採用している2トラック、38cmでないと、と言う願望が渦巻いてきました。
TEACをはじめとして、AKAI、SONYが相次いで、ツートラ・サンパチができるデッキを販売しました。
けっこうな売れ行きで、JVC、パイオニアが追随しました。ケンウッド、サンスイは参入しませんでした。
しばらくして、優秀なデッキが現れてきました。テンション・サーボ方式を取り入れたデッキです。
放送用デッキから民生用に作ったデノン、そして、独自に3Mのデータレコーダーの走行方式を採用したテクニクスです
海外ではREVOXがけっこう売れました。
私は、TRK339が大きく重いので、運搬できるデッキとして、パイオニアのデッキを買い、これは今イチの走行性能。
そこで、REVOX HS-77を買う羽目になり、録音会にデッキを担いで、参加していました。
1970年代です。それからも、オタリなどの優秀なデッキも発売されましたが、ビデオデッキによるPCM録音機が発売で、オープンデッキは姿を消し始めました。
それからは、皆さんご存じのテープ方式のデジタルデッキが発売され、期待されました。
ところがCD発売の1982年以降はCDで持ち切りとなり、録音するという趣味は少なくなりました。
近年は小型・軽量のマイク付きデジタル録音機が安価に買える時代となりました。
それでもアナログサウンドの最高を思い出したい
私は、10年前にTEACのオープンデッキを中古で買いましたが、その性能は今イチ。
そして、東日本大震災で、デッキの一部が壊れてしまいました。
それからは、手持ちのテープソフトはいたずらに在庫されていました。でも、いつも気になっていました。オープンデッキを!
オープンデッキ・オークションを眺めては、ため息をついていましたが、ついに4月、思い切ってテクニクス RU-1500を落札してしまいました。
届いたデッキはとても状態が良く、性能はばっちりです。
特にテンションサーボ方式が優れています。走行性能が素晴らしく安定しています。
TEACデッキはとてもかなわないです。
よくぞ、ここまで作った!とテクニクス根性が表れています。
テンション・サーボとは:3モーターデッキはフォワードモーターでテープを進行方向に引っ張ります。リバースモーターはテープを逆に引くようにテンションを持って、引きずり回されています。
走行速度はキャプスタンモーターで、保持されます。けれども、テンションが一定にならないと、テープの始まりは早く、最後のほうは遅くなります。
これでは、一定した音楽が保てません。これを重視したのがSTUDERで、いち早くテンション・サーボを取り入れて、走行スピードの安定化を図りました。
おおらかなのはAMPEXで、AG-440でさえもテンション・サーボ機能はありませんでした。
テープデッキは音がでるまでの儀式は、CDに比べるとものすごく面倒ですが、パソコン作業中に合間を見て聴いています。
やはり、オープンデッキサウンドはまったくデジタルサウンドとサウンドの基本的な味わいが違います。まるで、日本料理とフレンチの違いのようです。
どんなにCDが素晴らしいと言っても、その味わいはフレンチやイタリアンで、日本料理のような素材を生かす料理ではありません。
けれども近年のハイレゾはじっくり聴いたことがないので、何とかしたいです。
いずれにしても、過去の遺物オープンデッキを楽しんでいます。テープ音源は生禄ものが大半です。
ダイレクトカットレコードを聴く
1970年代には、アナログレコードの究極のサウンドを目指して、テープを通さず、ダイレクトにカットする方式のレコードが販売されました。
シェフィードラボからのダイレクトカットサウンドは、それは、それは、38/2Tに匹敵するサウンドでした。
けれども、ミュージシャンに大変なストレスを与えるので、はやることはありませんでした(ミスをすると演奏がやり直しになる)。
それでも、日本レコード各社は挑戦し、数枚のレコードが発売されました。
私のレコードプレーヤーを、何とメルカリで、¥3,200でゲットしました。
そのサンスイレコードプレーヤーを修理して使って、今、満足しているところです。
そこで、しばらく聴かなかったダイレクトカットのピアノソナタを聴きました(RCA 45回転、RDCE-4、1977年2月録音)。
それは凄いフレッシュサウンドです。Dレンジも比類なく広く、本質的に生なサウンドなんです。
そこには、フレンチやイタリアンで感じるチーズ臭さ、オリーズオイルの香りはありません。まさに、生そのものです。
そうしているうちに、お客様からTELがありました。バッテリー駆動アンプで、2WAYチャンネルアンプシステムを始められた方です。
チャンネルデバイダーの方式には、従来のアナログフィルター式と近年登場したデジタル方式があります。
そのお客様は、それまではデジタルチャンネルデバイダーでフラットな周波数特性を得て、それなりに満足されていたそうです。
しかし、「デジタルチャンデバとアナログチャンデバとでは“サウンドのフレッシュさ”がまるで違う!」と、うちのめされたようです。
AC電源駆動アンプで、SPを鳴らしているときは、音質のフレッシュさにそれほどの差異を感じていなかったそうですが、バッテリー駆動アンプで、SPを鳴らすと、はっきりと音質のフレッシュさの差異を感じてしまったとのことです。
魚で言えば、”生き”が違うと例えられていました。
デジタルチャンデバは高価でパソコン調整が必要です。けれども周波数フラットも大切ですが、フレッシュさが優先というお話でした。
そういえば、山梨で同じようなデジタルチャンデバ方式を採用している方に聴かされて、すばらしく4chシステムは良くなった!と私は激賞しました。
けれども、長く使っていると、フレッシュさで段々と違う心理がうずいてくるようで、数年前にやめて、真空管アンプによる2WAYSPとシンプル方式にしてしまいました。
これは、オーディオ道楽として贅沢な悩みと楽しみと私は思います。どちらが良い悪いという次元を超えています。
76/2TRレコードを聴く
1970年代、第一電器の熱心な方達は上記方式のスペシャルレコードを造り、販促用に配っておりました(カートリッジを買えば、おまけに貰える!)。
それを改めて、ダイレクトカットレコードと聴き比べると、それはダイレクトカットレコードのほうがフレッシュでした。
それは、76/2Tが凄いと言っても、高域特性は良くなるだけですから。
当時のオーディオは本当に楽しさにあふれていました。
皆様、今でも間に合います。素晴らしい道楽を、生活を乱さない程度の費用で大いに楽しみましょう。