5月末に、5998ppアンプの注文を受けました。
もうアメリカでも5998はレア真空管となってしまい、当社の在庫もなくなりましたし、他店にも在庫はないと思われます。このため、どうしても5998を採用したい場合はアメリカで探してもらいますが、5998はとても高価になってしまいます。
そこで、5998より増幅率はさがります(μ=5.2→2)が、入手可能な6AS7Gでのppアンプの注文に切り替えていただきました。
増幅回路はウイリアムソンとして、それ程高くない電源電圧でも増幅率を稼げるところにメリットがあります。5963-6AS7GTのドライバ回路です。
6AS7Gは増幅率が小さいので、バイアス回路にも工夫が要ります。単にオートバイアス回路だけでは有効に電源電圧を使いこなすことが出来ませんし、6AS7Gのプレート損失は13Wとそれほど大きくありません。考えた挙句、オート/フィックス・ハイブリッドバイアス回路を採用しました。フィクスバイアスで-60V程度として、残りのバイアス電圧は固定抵抗で行い、プレート損失内で充分なプレート電圧・電流の利用率を確保しました。
出力トランスは、シールドケースを用意して、出力トランスをアメリカ製充填材で充填して(この暑さで大変!)、振動防止とシールドを両立させました。
そのサウンドは、6AS7Gの内部抵抗が280Ωと低いので、充分なる低域再生が確保できました。残留ノイズも1mV以下で、NFBを5dBと軽く掛けたので、0.6mV以下に低下して、極めてローノイズと良好なサウンドをキープできました。
6AS7Gの本来の良さを発揮できるのはSEPP回路ですが、オーソドックスなのppアンプもなかなかです。歯切れのよさを重視する方にはSEPP回路をお勧めしますが、どちらもこの真空管を生かせる真空管アンプです。
いずれも、MASTERSのアンプならば、リーゾナブルな価格でのご提供が可能です。是非お気軽にご相談下さい。
約1ヶ月前に、四日市にお住まいのI様から、「パワーは3.5Wで充分。しかし音質の良いパワーアンプを作って欲しい。」とのご依頼を受けました。
検討した結果、「評判も良く、超ローノイズの“MASTERS BA-225/FBMOSy”の回路を採用して作ろう。」と決定しました。
外観は“MASTERS AU-700BD”のものが好ましいので、デザイナーの大友さんにその方針を伝えました。すると、早速、添付のようなエレガントなスケッチが届きました。I様にご提示したところ、「これは、素晴らしい!」との評価をいただき、製作をスタートしました。
デバイスは東芝2SK405/J115の黄金のペアを贅沢に採用しました。回路部品も、一部はOSコン、オーディオ評論家の故金子英男さんの発案であるブチルスチロールコンなどの高品質パーツも採用致しました。電源トランスは、充分余裕のあるものに、110V端子に100Vを加えて磁束密度を10%下げて漏洩磁束を激減させる等の施策も打ちました。そして、できあがりました。
まず、格好はヨーロッパ長エレガントで、さすが“SANSUI AU-607”をデザインした大友さんのセンスは素敵です。そして、そのサウンドは清澄で、それでいて結構パワフルであることは嬉しい驚きでした。
娘を嫁に出す気持ちで梱包し、発送致しました。そして、数日後に、I様から下記のようなメールをいただきました。
I様の許可を得て掲載させていただきます。
イシノラボ/マスターズでは、オンリーワンのアンプを、リーゾナブルな費用でご提供できますので、是非お気軽にご相談下さい。
コンパチブル・プリメインアンプ“MASTERS AU-700BD”について考察してみましょう。
最近、このキュートなアンプに多くの関心が寄せられています。
今、ブログを書きながら、聴いています。歯切れが良く、明快で、分解能が良く、反応も抜群です。POPS、ジャズ、クラシックも、バロック、室内楽にも最適ではないでしょうか?
また、高効率スピーカからは本当の静寂に、炸裂するサウンドを聴けるでしょう。
そこで、落ち着いて、このアンプの電気的性能の測定を思い立ちました。
まずは、電源はAC100Vの電源BOXから供給される方式で行いました。
【図1】に示すのが、周波数特性です。これは、10~100kHzまでの周波数応答を測定したもので、10~100kHz±0.5dBで、フラットです。これは、優秀なアンプならこのくらいの値を示すので、そう珍しくはありません。
【図2】に示すのが、何と1mWから10Wレンジまで、ひずみを測定したものです。通常の測定データですと、100mWで済ませてデータがあります。100mWと言うと、(8Ωなら)1V近くの出力があるのですから、90dBのスピーカでもがんがん音が出ます。
そこで、わたしは、1mWまで測定することを試みました。10mW(8Ω)で0.28Vですから、10mWなら性能の良いひずみ率計ならば測定できます。わたしの使っているHP8903Bは、更に10dB以上少ない電圧でもひずみ測定が出来ます。
1mWは0.086Vですから、何とか、測定できました。それ以下はHP8903Bでは測定不能です。
また、ひずみの測定は、ノイズもひずみと一緒に測定するので、ひずみ率計のローパスフィルターの値がひずみデータに影響します。AUDIOPRECISIONの自動測定器のように、ローパスフィルターを20kHzにして、10kHz以上のひずみ成分が測定できす、結果的に良いデータがとれる業界向けの測定器もあります。
さて、ローパスフィルターは80kHzとして、ノイズ成分の有害として、ワイドバンドでひずみを測定しました。
【図2】のデータで素晴らしいのは、1kHzと10kHzのひずみがほとんど同じ値を示したことです。普通は、高域になるとデバイスの高域特性の影響でNFBが減り(減らし)、ひずみが多くなるのが普通です。
AU-700BDでは、それはほとんど一緒で、しかも極めて低い、優秀な結果を示しました。また、残留ノイズが少ないので、何と24.4μVを記録しました。この値は真空管アンプが1mVの残留ノイズとすれば、1/40の低さです。半導体アンプは300μVくらいですから、これと比べても、1/10以下です。
従って、深夜、ニアフィールドで聴いても、まったくノイズは聴こえません。
また、110dBという高効率ホーンドライバーでも、ノイズは聴こえません。
静けさの世界があります。皆さんが105dBくらいのALTECスピーカで聴いたとしても、静けさは保てます。85dBくらいのスピーカで聴いたとしても、その音の大きさは100mW(±20dB)で充分なのです。
本格的なオーディオルームがあるとしても、平均レベルは1Wならばとても大きいほうです。
要は、微少なサウンドには人間の聴覚は危険を感知する本能から鋭敏です。大きな音になると、鼓膜を守るためにブロード(それほど精密ではありませんが)なのです。従って、微少レベルのクリーンさ、ひずみのなさが重要なのです。
ここで、数字が分かりにくいというご感想も頂いていますので、参考に表を示します。
前提として、負荷抵抗(スピーカ)は8Ωとします。
パワー |
出力電圧 |
音圧比 |
|
200W |
40.0V |
0.0dB |
200Wを基準するとたった3dBの違いです。 |
100W |
28.2V |
-3.0dB |
50W |
20.0V |
-6.0dB |
|
20W |
12.8V |
-10.0dB |
|
10W |
8.9V |
-13.0dB |
|
2.0W |
4.0V |
-20.0dB |
|
1.0W |
2.82V |
-23.0dB |
皆さんが(90dBのスピーカで)聴いているレベルは、大きい音でこの程度です。 |
0.1W(100mW) |
0.89V |
-33.0dB |
|
10mW |
0.28V |
-43.0dB |
|
1.0mW |
0.086V |
-53.0dB |
ひずみ測定限界 |
0.1mW |
28.2mV |
-63.0dB |
まだまだ聴こえる音です。 |
0.01mW |
8.9mW |
-73.0dB |
これでも聴こえます。 |
0.001mW |
2.82mW |
-83.0dB |
SPに耳をつければ聴こえます。 |
0.0001mW |
0.89mW |
-93.0dB |
優秀な真空管アンプの残留ノイズ |
0.00001mW |
0.282mV |
-94.0dB |
トランジスタアンプの標準ノイズ |
0.000001mW |
0.089mV(89μV) |
-104dB |
|
0.0000001mW |
28μV |
-114dB |
MASTERSのアンプの残留ノイズ |
【図1】 周波数特性
【図2】 ひずみデータ
【図3】 バッテリー電源で動作させたときのひずみデータ