アナログオーディオアンプの音色(おんしょく)は部品によってどう影響されるのでしょうか?
ことの始まり
オーディオアンプの電気的性能は、連続信号での周波数特性、ノイズ(S/N比)、ひずみ率等でデータ化されます。
しかし、このデータを見て、アンプのサウンド傾向(音色:おんしょく)とある程度相関があるのは、DF(ダンピング・ファクター)くらいでしょう。この値が小さければ、定電流ドライブ傾向となり、ゆったりサウンドになります。これが真空管アンプサウンドの性格を表わしていると言えます。それ以外では、なかなか差異が出ません。
例えば、NFBがある程度深くかかっている半導体アンプでは、精密ひずみ率で測定しても、同じような優良な値(例えば、THD:0.008%とか)が当たり前で、10kHzでのひずみ率にわすかに差異が出るくらいです。それでも、具体的には、AB級、A級アンプでは、THDは同じとしてもヒアリングではそのサウンド傾向を認識することはできます。
それはそれとして、それ以上のことは測定では差異がありません。
それでは、過渡特性を測定すればと言われますが、この測定法は確かな方式・方法はありません。
そこで、ヒアリングで、アンプの性能と言うより、音色(おんしょく)を好ましい方向にしようとすることがメーカー(特に、最近ではD社)でもおこなわれています。具体的には、採用する部品を交換して、選択・決定しているようです。いわゆる自嘲的に言うなら、チェンジニアリングによっておこなうことです。このようなことは、古くは1970年代後半、オーディオ評論家・故 金子英男さんから始まったと言って良いでしょう。
それまで、部品で音色(おんしょく)が変化することを確実に認識しているオーディオブランドはなかったです。例えば、私が所属していたサンスイ電気では、当初、電源用ケミコンブランドは2社併用だったのです。唯一、カップリング用ケミコンにパラにフィルムコンデンサーを使うと、音色(おんしょく)が良くなることが常識化したくらいでした。もちろん、“ラジオ技術”、“MJ”などのオーディオクラフト誌にはこのような記事は無かったのです。
私の体験を述べますと、昭和51年秋、AU-607を金子英男さん宅に持ち込んだ時、ヒアリングした金子英男さんはアンプ内部を眺めて、電源用ブロックコンデンサに1μ/松下のフィルムコンデンサーをパラに付けると高域がすっきりとした音色(おんしょく)になることを指摘しました。私はただ、びっくり。確かにそう聴こえるかな?と感じました。これが金子英男さんからの最初の指摘でした。会社に持ち帰り、関係者に聴かせると、多くの賛意が得られました。若干のコストアップになりましたが、採用が許可されました。
抵抗のあれこれと音色(おんしょく)
そうしているうちに、鉄成分が部品に含まれるとひずみが増えるということが言われてきました。具体的には、抵抗体に接続するキャップは鉄製ですから、この部分を非鉄(真鍮)に替えた抵抗が登場しました。確か、“タイヨー抵抗”と言ったと思います。そして、何と、鉄成分のひずみを検出するひずみ率計が売り出されたのです。-140dB(0.001%)まで、測定できるものでした。当時、各社一斉に、“タイヨー抵抗”を採用しました。ところが真鍮部分の温度変化により抵抗値が不安定になるという事故が発生し、各社、採用をやめて元に戻りました。
ところが金子英男さんは“RM抵抗:理研電具製”を高く評価していました。
RM抵抗キャップは鉄製でしたが、抵抗全体をモールド加工しているので、振動が少ないはずと評価して、各アンプメーカーに使用を推奨しました。けれども通常のカーボン抵抗に比べ10倍以上の価格のため、重要部分だけの採用が精いっぱいでした。中でも、当時、もっとも熱心に採用したのはLUXでした。
金子英男さんはこのキャップに非鉄製の採用を進言し、理研電具は製品化しました。この抵抗はRMGとネーミングされ、ブルーの外観で識別さました。価格はさらにアップしました。さらには、リード線に金メッキした最高級品まで製品化さました。さすがに高価格で、採算にのるほどの数が出ず、生産終了となりました。ちなみに、通常抵抗は、磁石を近づければ抵抗は吸い付きます。オーディオ評論家は特に、抵抗に言及することはなくなりました。
ここ20年以上、抵抗については温度変化に非常に優秀なVISHAY(ビシェイ) 無誘導金属箔抵抗がありますが、超高価です。本来は航空機用です。さすがに、ここまで凝る方は少ないです。
ちなみにキャップ部分を持たない板抵抗(1/2W金属皮膜抵抗:ニッコーム)は@¥20、千石電商で販売されています。一方、一般のカーボン抵抗は@¥1と、けた違いで安価です。勿論、オーディオメーカーは通常品が標準です。また、近年の表面実装になって、超小型半導体抵抗は一般エレクトロニクスの小型化に役立っていますが、オーディオ用には歪成分はイマイチと言われています。
私はこのような抵抗にこだわって、音色(おんしょく)を選択する傾向は、否定はしませんが、あまりお奨めしません。
コンデンサーのあれこれ
近年でも、抵抗よりもコンデンサーの選択にこだわる方が少なくないようです。
そもそも、コンデンサーは静電現象により、電気信号が伝わります。その現象を利用しているのがSTAXのコンデンサーイヤーSPです。
従って、コンデンサーは必ず交流電気信号が通ると振動します。イオン移動で電気が流れる電解コンデンサーも同様、振動します。
フィルムコンデンサーの振動防止には、コンデンサー全体を固める材料で囲うとか、粉体のプラスチックで四角に整形する等の方法があります。ケミコンでは電解液の外側を充填剤で固めることもおこなわれています。このような処置によって、電気的な性能には影響がほとんど無くなるでしょう。
それでも、ヒアリングでコンデンサーの差異を指摘できるのは(統計的には有意と言う意味ではありません、いわゆる、気のせいです)、その原因はコンデンサーの固有共振周波数によるものと推測します。
そうなると、ヒアリングする方が、コンデンサーチェンジを繰り返し、“これだ!”と思ったものになると思われます。
私は、できるだけ、コンデンサーを用いない直結回路が良いと思います。
その点ではFETは有効と思います。
こう言ったら角が立ちますが、超高価なコンデンサーをありがたがるのは、私としては少し躊躇します。
別の見方として、コンデンサーの高周波インピーダンスを気にする方がおられますが、特別にNFB量の調節(位相補償)には少し関係するかも知れません。
私ならば、全体のNFB量を増やしません。
かつて、生前のH.S.ブラックさんにお会いしたT・Sさんは、ブラックさんから、NFBはMASTER SLAVE SYSTEMと言われたそうです。
あまり、きつい、MASTER SLAVE関係はシステムとしたくはありません。
それでも、コンデンサーをあれこれ開発した、1970年代後半の金子さん指導によるフィルムコンデンサーが懐かしいです。Vコン、Vxコン、ラムダコン、Uコンといろいろありました。現在では、新コンデンサー開発パワーは有機半導体等に振り向けられているようです。
面白いのは、Dクラスアンプにおいてもコンデンサーのヒアリングによる選択がなされ、それがセールスポイントになっています。意外と高周波スイッチング特性においては、コンデンサーの高周波特性で音色(おんしょく)が変化するかも知れません。
いずれにしても、チェンジニアリングによって、オーディオの楽しみがあることには違いありません。
私は、その前にアンプの最適動作ポイントを測定器で検討することのほうが先で重要と考えています。サンスイ在籍時には金子英男さんの圧力もあり、原価アップを背負いながらアンプ開発した側面もあります。けれども、私が提案したXバランスアンプは、部品交換による音色(おんしょく)変化は割と少なく、部品選択作業から少し解放された“ほっと感!”がありました。
MASTERSのZバランスアンプはほとんど、高価な、特殊な部品は採用しておりません。特に、位相補償コンデンサーは3Pのセラミックコンデンサ―が2個だけです。それはNFB設計において、多量NFBを掛けずに優秀な電気特性を得ているからですし、結果として、カラーレーションのないサウンドです。
オーディオアクセサリーについて
スピーカーケーブル
すでに高価なSPケーブルが出回っており、オーディオビジネスを支えています。
通常のスピーカーカーブルの特性インピーダンスは120Ωであり、そのあたりを考慮せず、芯線の材料特性やMIX加減を、ヒアリングでビジネスしているのはある意味楽しい世界であります。私は否定するものではありませんが、アンプの原価構成に比べ利益を大幅に取っているのは仕方ないにしても、ユーザーさんは、少しは考えて欲しいと思います。
このような考えもあります。
高島屋で¥80万の宝石を売っていて、まったく同じ宝石が御徒町の宝石屋さんでは¥20万で売っていることもあります。誇り高い方は、高島屋で買えば¥100万の価値があり、御徒町のものは¥20万の価値しかないという富裕思想の方もおられます。
とりとめのないブログになってしまいましたが、私は適正な価格で皆さんにアンプを提供したい気持ちがますます強くなっています。