ニアフィールド・リスニングにも最適
チャンネルアンプシステムは究極の方式?
チャンネルアンプシステムは究極の方式と言われますが、私自身、若いころ、チャンネルアンプシステムを採用して苦労を重ねていました。
サンスイに入社して、やはりとても難しいと感じて、やむなくやめて、JBL4320、そして後年、TANNOY アーデンと独立スピーカーで楽しんでいます。
WestRiverアンプの川西さんも1990年代にはすでにB&Wの805(2WAY)がヒアリングスピーカーになっています。
プロの世界では、SRやライブ用システムはチャンネルアンプシステムがほぼ100%です。従って、チャンネルデバイダーはEIAラックサイズで比較的安価に販売されています。
ライブの世界では、ノイズについてはお客様が気にならなければOKで、割とおおらかです。
ピュアオーディオ愛好者の世界では、チャンネルアンプシステムアンプ愛好者はせいぜい300人/日本中と予測していたので、チャンネルデバイダーは発売しても極小と考えていました。
せめて、チャンネルアンプシステムのサウンドバランスをやりやすい方式として、クロスオーバー周波数の可変方式を採用しました。
アンプ技術者は、周波数分割方法の理想として、伝達関数1の方式、具体的には引き算式が一時期クラフト誌に取り上げられていましたが、スピーカー、リスリングエリアでは、まったく成立しないことがはっきりしているので、今では関心は薄れました。
マスターズのチャンネルデバイダーは予測に反して、当社としては少なからずの製作台数を数えることになりました。
チャンネルアンプシステムの悩み
多くの方は高磁束密度によるホーンドライバーに強いこだわりを持っておられ、高磁束密度とホーン効果により、110dB以上の効率によるアンプの残留ノイズに悩まされていると思います。
それはそうでしょう、一般のスピーカーでは、小型化により、効率低下を承知の上で、ワイドレンジを優先しているのです。
平均して、86~88dBに推移しています。エネルギー効率としては、0.5%以下の世界です。
ですから、100Wとか200Wとかのハイパワーが販売されています。
ところがそのような低効率の状況でも、ユーザーが通常聴いている音量はせいぜい0.1Wレベルです。
このような状況下においては、ハイパワーアンプは無用とは言いませんが、おかしなこととなっていると思いませんか。
“やっぱり、ハイパワーアンプで小さい音量でも威力ある!”という話を聞きますが、ハイパワーアンプが小音量時はAクラス領域で動作しているための結果ではないかと推測します。
そして、おおむね、半導体アンプの残留ノイズレベルは0.2mV(Aネットワークなし、LPF:30kHz)です。
86~88dBのスピーカーでは、このようなノイズレベルはヒアリングの障害にはなりません。
もっと拡大すると、真空管アンプで1mVでも特にヒアリングの障害になるという話はあまり聞きません。
ところが、ホーンドライバーの通常スピーカーよりも22~24dBも高い効率を有しているので、10倍以上の残留ノイズ音となって、ホーンに耳を近づければ、“サー”というノイズが聴こえるでしょう。
けれども、4mも離れれば、12dBノイズレベルが下がりますから、気にならなくなるとして、それでよしということが現状ではないでしょうか?
それでも、潔癖な方、神経質な方、音の静けさにこだわりを持つ方々は改善意欲を持っていると思います。
チャンネルアンプシステム用のパワーアンプ
まず、最大パワーは小パワーであるべきと思います。110dBという音は耳をつんざくような大音量で、さらにドライバーに入力を加えると振動板が破壊されます。
限度としては5Wくらいでしょう。
超高価なドライバーを壊さず、良い動作レベルでドライブするパワーアンプは1Wもあれば充分と思います。
そのうえで、従来アンプよりも20dB(1/10)以上の残留ノイズレベルのパワーアンプであるべきです。
そこで、以下の目標仕様を作成してみました。
型番 | BA-102(仮) |
方式 | MOSFET ハーフブリッジ |
最大出力 | 1.2W+1.2W(8Ω) |
動作 | Aクラス領域動作 |
入力インピーダンス | 20kΩ |
マッチングインピーダンス | 4~8Ω |
周波数特性 | 20~100kHz(-1.0dB) |
増幅率(基準) | 6dB(2倍) |
ひずみ率 | 0.01%以下 |
残留ノイズ | 5μV以下(LPF:30kHz) |
注意すべきは、S/N比よりも、残留ノイズです。
例えば、100W(28.3V/8Ω)アンプでS/N比、60dBとすると、残留ノイズは28.3mVとなり、1W(2.83V/8Ω)アンプなら、2.8mVとノイズの大きさが下がることです。
S/N比80dBとなると0.28mV、さらに100dBとなると0.028mV(28μV)、120dBとなると2.8μVとなり、ほぼ測定器の測定限界に近づきます。
これほどの低ノイズですと、もう、耳を近づけてもノイズが聴こえないレベルと推測します。
このようなドライバーに最適な専用アンプができると思います。
Aクラス領域とは
半導体アンプの場合、動作クラスは負荷抵抗と重大な関係があります。
例えば、多くのAクラスアンプは8Ω負荷時にAクラス動作であって、4Ωと低くなれば、ABクラスに変動します。
従って、スピーカーは公称8Ωスピーカーでは、最低インピーダンスが周波数によっては、4Ω程度に下がることは常識です。
逆に負荷抵抗がアップすれば、Aクラス領域になります。すなわち、負荷抵抗がアップするのに比例して、Aクラス領域アイドリング電流は減っていきます。
具体的には、マッチングトランスで、例えば、3:1の巻線比なら、スピーカー側のインピーダンスが8Ωなら、2次側(アンプ側)は約80Ωとなり、多くのアイドリング電流を流さなくとも、Aクラス動作が可能となります。
さらに半導体パワーアンプにおいて、負荷抵抗が大きくなる(軽くなる)ことは半導体回路のリニアリティ(ひすみが減る)が向上します。
多量のNFBでひずみ改善することは、回路動作の発振安定性にとって、マイナスです。
半導体が発生するノイズ
パラレル(2本)接続するとノイズは1/√2(-3dB)改善できます。4パラレルにすると1/2(-6dB)改善します。
ある方のノイズ測定データによれば、
2SC2240(40μV)/2SA970(35μV)
コレクタ電流:1mA時
と報告されています。
パラレル接続によるS/N比の改善
パラレル接続で、1/√2→3dB改善されます。
4パラならば6dB改善されます。
試作機の報告
まずは、電気的性能は、以下のとおりとなりました。
最大出力 | 1.4W+1.4W(8Ω) |
ひずみ率 | 0.004%(発振器ひずみレベル) |
増幅率 | 5.8dB |
周波数特性 | 20~100kHz(-1.0dB) |
残留ノイズ | 8μV(LPF30kHz)ほぼ測定限界 |
このように極めて優秀な性能は、マッチングトランスをバイファイラー巻としたので、その効果とも言えるかもしれません。
また、このアンプは初段がパラ接続になり、かつ、マッチングトランスに増幅率が下がって、極限のローノイズ特性が達成できたというべきでしょう。
これなら、110dB(高効率)ホーンドライバーには最適といえましょう。
また、マッチングトランスはドライバーの破壊保護作用もメリットです(DCを伝えない)。
補足メリット
SPへの出力はトランス出力なので、フローティングバランス状態です(片側をグランドに落とせば、アンバランス出力となります)。
グランドからのノイズからはフリーとなるはずです。
サウンドパフォーマンス
私のほうはチャンネルアンプシステムではありませんので、フルレンジSP(タンノイ アーデン(アルニコ))で聴いてみました。
特に、ビートが生命であるジャズ/ロックでは素敵に聴こえます。大げさに言うならしびれます。
クラシックでは、サンサーンスのsym NO.3を聴きました。パイプオルガンの重低音のベースに展開するオーケストラのハーモニーの重なりは見事に聴き取れ、奥行き感も充分再現されます。
そして、何よりも鮮明です。
よって、フルレンジリスニング、とりわけニアフィールド・リスニングにも最適と言えましょう。
結論
今回、検討・試作により極めて良好な結果を得ましたので、製品化したいと考えています。
ご期待下さい!!