2014年に発売された“オーディオお助けハンドブック(音楽之友社)”を眺めると、デジタルテスターの使い方として、アンプのシャーシ電位の測定法が掲載されています。
デジタルテスターのマイナス側のリード棒を測定者が握り、アンプの電源をONさせて、デジタルテスターのプラス側のリードをアンプのシャーシにタッチします。測定レンジはACとします。
アンプの電源ケーブルをACコンセントへの差し込み方向を変えてみて、シャーシ電位が微妙に変位することがあります。シャーシ電位が低いほうを差し込んでおくべきという見解があります。
ほとんど電位に差がないときはどちらでも良いということにもなります。
この手続きをアンプセットの際の作業という見方もあります。なぜ、そうするのかと言うと、電源極性により、微妙に音質・音調が違うという記事が少なくないからでしょう。
それはそれとして、いったい、上記内容は電気的に見て何を意味するのでしょうか?
【図1】を見てください。
シャーシのグランドとはオーディオ信号のアース側とアンプ電源トランスの2次側センタータップが接続されて、シャーシに落ちています。
このことはシャーシ内の機器は静電シールドされ、外部からの電磁誘導成分はアンプ内部に入り込まないことになります。
そうなっているので、アンプメーカーは電源ケーブルの極性はどちらでも良いということになっていたのです。
ところが、一部評論家さんが、シャーシ電位について言及してオーディオ誌に記述したので、近年、関心がもたれるようになってきたのです。
けれども、このACシャーシ電位は、電源トランス巻線からのストレー(漏れ)キャパシティ(静電容量)電位を測定することに過ぎないのです。
この電位の電圧波形をオシロスコープで観測すると、その通り、電源(100V)波形と相似になります(【図2】【図3】参照)。
だから、シャーシ電位は電源極性により多少変動するのです。
シャーシ電位をできるだけ低くすることを要求されるのは医療機器です。
病院やクリニックのACコンセントはアース付き3Pになっているはずで、アース端子は地中に配電業者がアース棒で取っているはずです。
さらに、電源トランスによる上記ストレーキャパシティが最少になるように電源トランスの1次側に静電シールドを施します。
橋本電気トランスのように、さらなる工夫を加えた静電シールドを施している電源トランスもあります。
通常、オーディオ用電源トランスは、ストレーキャパシティ問題はないとして、静電シールドは省略してあります。
また、トロイダルトランスやRコアトランスはその形状から、静電シールドを施すことが困難です。
従って、アンプ電源極性はあまり神経質にならず、残留ノイズの少ないほうとか、聴いて、好みのほうにしておけば良いと思います。
さらに、ストレーキャパシティの問題をクリアにするには、電源別シャーシ構造にすれば、ほとんど解決されます。