お話の始まり
先日、Hさんから、STAXイヤースピーカ/ヘッドフォン バランスドライブアンプ“MASTERS SX-3000BD”のカスタム品(バランス入力1系統のみ)で真空管フォノイコライザーを聴きたいとの問い合わせがありました。
真空管フォノイコライザーはRCA出力で、バランス出力がありません。接続には、ホット側出力のみ対応する変換ケーブルではバランス増幅アンプがうまく動作しません。
バランス入力対応(入力ですぐにRCAに変換する回路構成)のアンプでは問題ありませんが、何とかしてほしいとのお話でした。
納入後の性能、パフォーマンスを診る。
数日してアンプ類は届きました。この“SX-3000customの”内容を説明しましょう。
- STAXイヤーSPが聴けるのは言うまでもありません。それに加えて、5W+5Wのパワーアンプとしても使えるようになっています。もちろん、スピーカーの出力はスイッチでON/OFFできるようにしてあります。従って、パワー管は6V6GTを3極管接続で採用しております。
- 通常のヘッドフォンは使えます。また、バランス増幅の特徴を生かして、4線式のヘッドフォンなら、バランスドライブできるようにXLR端子が装備されています。
- このカスタムアンプは、入力はバランス専用とのリクエストに応えて、入力はXLR端子1組だけです。音量調整は4連ボリュームでおこない、さらに、L/Rレベルの微調整にL/R専用ボリュームが付いています。
測定してみる
そうして、まずはアンプを測定してみました。このアンプは約1.5年前に製作したセットです。納入後の経年変化も含めて、チェックは興味あり、重要な事項と思いました。
- 残留ノイズを測定してみました。残留ノイズの測定にはどのような帯域で測定するかで大きく測定値が変わってきます。そもそも、JISやIHFの残留ノイズ測定法はメーカー側に有利に決めてあり、測定用フィルター低域はカット、高域も15kHzくらいでカット、従って、このデータが良いと言っても、“ブーン”というハムノイズがあってもそれは測定データに出てこないのです。
マスターズではそれはおかしいと低域はカットせず、高域は30kHzまでの範囲で測定しています。ですから、ハムノイズがあればすぐ対処・改善するようにしております。
スピーカー出力で測定してみると、L/Rとも250μV以下で、真空管アンプとしては非常に優秀、通常の半導体アンプと同程度の少なさです。そのうえ、ノイズ成分にハムノイズ成分はオシロで監視し、ほとんど検出できませんでした。
- 次はひずみ(高調波特性)を測定してみると、極めて優秀です。特に、小レベル(0.5W)時のひずみは真空管アンプであるのに、0.05%以下と良好で、奇数次ひずみも少なかったです。さらに、パワーを出していくと、NFBの少ない真空管アンプにふさわしいソフトクリップ傾向です。また、1k/10kHzのひずみレベルも同等です。このアンプは、NFBは3dBしか掛けていないので、真空管アンプ回路の良否を見せてしまいます。また、NFBが少ないだけに極めて発振安定度(発振するわけがないほど、NFBが少ない)は抜群に優秀でした。
- 周波数特性も極めてワイドレンジ、10~30kHzにおいて、-0.3dB以内に収まっています。特に、低域は超低域の周波数特性が落ちていると、プログラソースのサウンドずっしりさが発揮できないことをよく経験します。
- STAXイヤーSPへのドライブ電圧のリニアリティは、500Vrmsを軽々と超えます。測定用のアナライザーを高電圧で壊す恐れがあるので、極めて短時間測定しました。
聴いてみる
少し、安心したところで、聴いてみることにしました。私に言わせれば、電気的測定は料理に例えれば、栄養データ(カロリー、糖分、タンパク質等)みたいなもので、電気的測定データが優れていても、聴いて(食べて)おいしいとは限りません
まず、STAXのイヤースピーカーからヒアリングすることにしました。
- クラシック、シンフォニーを聴いてみる。すぐ感じるのは、圧倒的な音圧感です。けっこう、豪快なサウンドです。
- ジャズのビル・エバンスの傑作、ビレッジ・バンガードのライブを聴きました。まず、お客様のノイズが生々しい。それにシンバルの一撃が浸透的です。ウッドベースの動きも敏感に感じます。
- 次に、ヘッドフォン、それも最近買った、ゼンハイザーで聴きます。上記、音源で感じるのは、凄い低域のサウンドです。ゴリゴリとした低音は圧倒的です。さらに、バランスドライブ接続すると、それにすっきり感が加わります。
- 番外編かもしれませんが、スピーカーで聴いてみます。これがまた、すっきり、スムーズ、そして、けっこう迫力あるサウンドです。半導体アンプのようなハードさのない、きびきびしたサウンドでした。
このアンプのパフォーマンスはバランス増幅、バランスドライブの良さとアンプ自体の性能の良さがあるのだと思います。とりわけ、わずか、3dBのNFBが功を奏しているかもしれません。特に、6V6を3極管接続することは、非常に優れたリニアリティが得られました。
RCA→バランス変換アンプを作る
そして、Hさんのリクエストである、真空管フォノイコライザーがこの“SX-3000custom”で聴けるように、バランス変換アンプを製作しました。回路はホット、コールドともに独立してバランス変換して、低ひずみ、ローノイズの変換アンプが出来あがりました。RCA入力は2回路設けて、使いやすいようにしました。
真空管フォノイコライザーはCR回路で、かつ、MCトランスを内蔵してあります。
まず、電気的動作として、“SX-3000custom”の動作は非常に良好でした。
次に、アナログレコードを掛けて、STAXイヤースピーカーで試聴することにします。
はじめは超Hi-Fi録音として有名なTELACレコードです。パイプオルガンが加わるサンサースのSYM NO,3です。極めて、ノイズ少なく、ひずみ感が皆無で、見通しの良いサウンドです。オーケストラの遠近感もよく聴き取れます、そして、いよいよ、パイプオルガンの低音が静かに確実に、迫ってくる感じが聴き取れます、そしてフィナーレでは超低音も含めてfffで終わります。恐怖感を覚えました。同じ、箇所をゼンハイザーのヘッドフォンでは、さらに低域のドライブ感がものすごく、ダイナミックヘッドフォンのパワフル感もいいもんだ!という境地に浸りました。
次は、ダイアン・シュアーのフィメール・ジャズボーカルです。豊かな声量、行き届いたニュアンス、それにスイングするバックオケ、ジャズボーカルがどのヒアリングでも楽しめますが、ナチュラルな雰囲気を楽しむならSTAXイヤーSP、切れ味の凄さを感じたいなら、ゼンハイザーのヘッドフォンでした。もちろん、通常のスピーカーではのびのびしたボーカルを味わえます。
hanasi
新年のご挨拶
2015年を迎えました。みなさん、充実した日々を過ごしていると思います。
まずは、心身の健康です。気持ちの良いサウンドをお聴きになって、すてきな時間を過ごしていただくことを願っております。
2015年もよろしくお願い致します。
オーディオアンプのあるべき姿
昨年は、アドバスドZバランスアンプ、Xカレント電源回路の開発で、“アンプは電源が最重要!”、そして、アンプは“スピーカーのふるまい”を充分考慮して設計しなければならないと改めて感じております。アンプ設計者は、ともすれば、コントロール機能である増幅回路に気を取られ、上記ポイントを忘れがちです。
やはり、電源設計やスピーカー設計の経験を積んで、アンプ設計に係る事が重要と、この年になっても再認識しております。このポイントをベースに今後も邁進したいと思っております。
AU-900STAX/XHPについて
ところで、ここ2-3年、STAXのイヤーSPはじめ、ヘッドフォンヒアリングオーディオに人気があります。
やはり、大きな音で聴けることはオーディオの醍醐味です。けれども、他人に迷惑を掛けず、自分のサウンドワールドに浸れるヘッドフォンリスニングも大きな楽しみです。
特に、STAXのイヤースピーカーの空気感漂うサウンドは素敵です。
このことは静電力(クーロン力)で振動する発音体は動電(ダイナミック)型のような逆起電力が発生しないことに関係があります。
従って、ドライブするアンプのダンピングファクターは、静電型スピーカーにとって、その再生サウンドに理論的には関係がなくなります。
静電スピーカーのダンピングは、振動膜に掛けるバイアス電位によって決まってきます。
例えば、バイアス電位を下げていくと、サウンドは柔らかい感じで少し(2dB:300VDCで)音圧が下がります。逆に、バイアス電位を上げると、振動膜の張力が増し、ダンピングが大きくなります。STAXは長年の経験とノウハウにより、最適バイアス電位を決めていると言っています。
そうなると、STAXイヤースピーカーをドライブすることでの重要ポイントは、振動膜をひずみなく動かすことです。
それは、振動膜を両側から均等に動かす(バランスドライブ)ことなのです。
MASTERSのSTAXイヤースピーカーをドライブできるアンプは、真空管方式と半導体方式とがあります。
コンパクトで、費用セーブできるXカレント採用多用途プリメインアンプ“MASTERS AU-900STAX/XHP”が最近特に人気があります。
ブロックダイアグラムに示すように、STAXイヤースピーカーのドライブ回路はクローズドループで構成され、電源(電磁波ノイズ)、アース電位に影響されることがありません。クリーンなドライブ環境で、STAXイヤースピーカーをバランスドライブします。
また、このアンプにはXカレント回路が組み込まれ、スピーカー再生にも優れたパフォーマンスを示します。また、近年、動電(ダイナミック)型の進歩は顕著で、なかなかのサウンドです。特にゼンハイザーのヘッドホンは発音体の口径が大きく、振動系マージンが充分すぎるほどあり、STAXイヤースピーカーとは対照的な切れ味の素晴らしさを感じます。
このように、多くの楽しみを1台のアンプでできてしまうことは、ハッピーなことと思いませんか!
みなさん、ともかく、楽しく、オーディオに取り組んで下さい。
【図1】“MASTERS AU-900STAX/XHP”のブロックダイアグラム図(スイッチは省略)
スタックスイヤースピーカーは、みなさんご存じのように静電型スピーカーです。
スタックス工業時代からですと、70年以上の実績があります。また、世界でもオンリーワンと言って良いほど、静電型イヤースピーカーを造り続けている貴重な会社です。
私も、SR-3(40年以上前)時代からの愛用者です。
また、(有)スタックス社長・目黒氏はサンスイ時代からよく知っている仲です。
そのような背景もあって、マスターズでは、10年近く前から、スタックスイヤースピーカーをドライブできるアンプを開発、製品化しております。
特に、イヤースピーカーだけでなく、同時に、通常のスピーカーやヘッドフォンも使える多用途アンプをモデルチェンジしながら、長期間、ご注文が継続しております。幸い、好評を得て、好調な製作を継続しています。
さて、静電型スピーカーの動作原理及び基本構造は、【図1】に示すように、中心に振動膜があり、その振動膜には高圧(300V以上:現在は580V)電圧(バイアス)を掛けておきます。
両側に固定電極(これは音が通るように、穴が開けられて(開口率は高い)が置かれ、固定電極は0Vにしておきます。そうすると、振動膜はクーロンの静電力によって、バイアス電圧に応じて、張力が働き、ピンと張られます(バイアス電圧が高いほど張力は高くなる)。固定電極にオーディオ電気信号を加えれば、振動膜は振動し、音になります。
両側の固定電極にはHOT,COLDのバランス信号が加えられますが、原理的には、片側の電極だけにオーディオ電気信号を加えても音が出ます。
STAXイヤースピーカーは両側の固定電極から、バランス電気信号を加えて、バランスドライブ(プッシュプルすれば、片側電極からは引っ張り、片側電極からは押す力が働き、より振動膜はパワフルに、リニアに、ひずみ少なく、振動して、良いサウンドになるわけです。音圧は6dBアップします。)、静電力は振動膜全体に発生し、ダイナミックタイプのようにボイズコイルに駆動力が働くわけではなく、全帯域にわたって、ピストンモーションが得られます。
静電型スピーカーはこのような動作原理で、品位高いサウンドが出るわけです。
一方、ダイナミック(動電)型スピーカーのドライブはスピーカーボイズコイルには両側(巻始め、巻終わり)に端子(電極)があるのに、通常アンプの出力は片側の電極は接続され、残った電極はグランド(アース)に落としてしまい、いわば片側ドライブになっています。
このことに関して、長年、アンプ技術者、オーディオファンは、あまり問題意識を持たないようです。これは、アンプを電気測定して一応の結果が得られ、スピーカーが動き、音が出ることで、それなりになっているのでしょう。
最近の私の解析では、整流回路を持つアンプは、Xカレントのような工夫を施さないと混変調ひずみが発生することが分かりましたが、このことはほとんど知られておりません。
そのようなわけで、私は、バランスドライブアンプの優位性を主張しますが、アンプを片chあたり倍、必要になるので、費用の点で困難なら、せめて、Xカレント回路を搭載したアンプをお勧めします。
真空管アンプにおいても、せっかくのプッシュプルアンプも出力トランスによって、バランスドライブから、片側(アンバランス)ドライブになっているのはもったいないことです。マスターズの真空管アンプでは、出力トランス2次側で、スピーカーをバランスドライブできるようなバランスフィードバックを施した真空管アンプになっております。
なお、マスターズアンプでの多用途STAXイヤースピーカードライブアンプのブロックダイアグラムを【図2】,【図3】に示しておきます。
【図1】静電型スピーカーの動作原理及び基本構造
【図2】新開発“Xカレント回路”を搭載!STAXも通常型ヘッドフォンも聴ける多用途プリメインアンプ“MASTERS AU-900STAX/XHP” ブロックダイアグラム
【図3】STAXイヤースピーカ/ヘッドフォン バランスドライブアンプ“MASTERS SX-3000BD” ブロックダイアグラム