始まり
2週間前に、TELが鳴った。“千葉市に住んでいるものですが、AU-707を修理したい!“という内容でした。
以前、AU-D707を修理して、うまくそのサウンドは生き返りました。
それから、ずっと、動作しているようです。
今回は、同じデザインですが、1978年に製造年が遡ります。うまく、直るかどうか?特に、修理部品の入手に心配がありました。
お客様には、大分、年月が経っているので、保存状態が悪いと治らない場合もありますと、説明すると、部屋の中に置いていたので、保存状態は悪くないということでした。
持ち込み
2日後、修理依頼された方が車で、AU-707を運んできた。“若いころ(20才代)、やっと貯めて買ったオーディオは、アカイのデッキとAU-707でした!”と言うお話で、廃棄するには忍びなく、最近、世間がアナログレコードを取り上げる様になってきて、急に、アナログレコードを聴きたくなったそうです。“症状は?”と聞くと、“電源が入らない!”ということでした。
持ち込まれたAU-707は予想よりきれいな状態で、ボンネットを開けると、ほこりが少ない良好な状態でした。
修理
1次電源関係の故障
1次側の100V電源回路をチェックすると、導通がありません。電源ヒューズをとチェックすると、導通があります。まさかと思って、電源スイッチをONしても、導通がありません。電源スイッチの不具合です。交換が必要ですが、AU-707はレバースイッチで、現在、まったくと言ってよいくらい存在しません。まして、AU-707用は、他のAU-707から部品取りして、交換する以外ありません。在庫、部品箱をひっくり返して、探すと、やっと1個、見つかりました。
“しめた!”これで、電源が復旧すると、アンプのフロントパネルを外して、交換しました。電源スイッチのON/OFFで、ラッシュ電流が流れるのを軽減するために、修理する間はスライダックで電源電圧を上げてショックがでないように心がけました。また、電源ON/OFFのスパーク軽減に0.01μFのコンデンサを外して、新たに0.1μ+120Ωのスナバ回路を付けました。このほうが、効果があるのです。
プリアンプ回路の修理
次に、電源をONして、プロテクション用リレーがONするかどうかをチェックすると、これはONします。さらに、スピーカー端子、RCA端子にケーブルをつないで、発振器入力を加え、アンプ出力を診てみます。
リレーがONして、片側Rchの出力が出てきました。Lchは出ません。
どこから出力は途絶えているのかの探索です。
アンプを開けて、シールドカバーを外します。入力から、オーディオ信号の流れを追っていきます。まず、入力セレクターの接触をチェックします。これは、OKでしたが、念のため、切替操作を繰り返し、そして、接点復活剤を振りかけてさらに、動かして、接点をクリーニングします。
ようやく、信号がL/R揃って出てきました。これで良いわけではなく、出てきた信号のひずみ測定することが必要です。接触ひずみがあると、ひずみ率は0.5~0.8%も2次高調波を中心として悪化します。この部分はOKになりました。
次に、トーン/ラインアンプ部分のチェックです。マスターボリュームの入出力は、OKでしたが、マスターボリュームのクリーニングをおこなっておきました。
さらに追っていくと、ラインL側の出力レベルが不安定です。トランジスタの水分侵入による劣化が予測されるので、交換。さらに出力コンデンサも交換。プリント基板全体のパターン面を再ハンダ。今度は、ラインアンプとパワーアンプ間の接続部です。当時のプリメインアンプはプリアンプ部とパワーアンプ部とは分離されるのが常識でした。
この接続スイッチの接触が不具合、信号がパワーアンプ部に伝わりません。そこで、切替スイッチを経由せず、ダイレクトに信号が伝わるように接続を変更。これで、入力からパワーアンプ部の入力部まで、良好な動作となりました。
パワーアンプ回路/プロテクションリレー部の修理
最初からプロテクション回路は良好で、リレーはONします。さらに、DCオフセットは正常に変化して、調整可能です。けれども、経年劣化を考慮して、半固定ボリュームを交換、次に、アイドリング電流調整も正常ですが、これも、半固定ボリュームを交換。ありがたいことに、このサイズの半固定ボリュームはまだ、入手できるのが幸いです。近い将来、このサイズのものは無くなるでしょう。
これでうまく動作するかを考え、スピーカー端子からの信号をチェックしてみます。信号レベルがL/Rに2dB程度のばらつきがありました。
これはパワーアンプ部の不具合か、それともリレー以降の不具合だろうか?
また、ひずみ率を測定すると、0.8%もあります。
試みに、音楽を通して、聴いてみると、ややひずみが多い音です。これはリレーが原因と推測し、リレー交換することにしましたが、この大きなサイズで、プリント基板タイプのリレーは入手不可能です。そこで、現在使われるサイズで、接点性能に定評ある数少ない日本製に交換することにしました。AU-607/707の構造で問題点はここで、サービス性が良くないのです。
プロテクション部のプリント基板をやっと外し、リレー交換。
そこで、改めて、ひずみ率を測定すると、0.015%と、ほぼ発振器レベルにさがりました。これで修理は完了かと考え、エージング試験に取り掛かりました。けっこう、良い音です。ところが1時間後、RCHから、“バツッ”という瞬間的なノイズ!これではだめ!
少し、気持ちが下がって、パワーアンプ部のユニットをL/Rともに外し、不具合部を探すことは、NFBが掛かっているので、特定はできません。そこで、電圧増幅用トランジスタをすべて交換、ノイズを出しやすいとされるツエナーダイオードも交換。位相補償用セラミックコンデンサーもすべて交換。
さらに、プリント基板の部品穴部分をハンダ吸い取り器でハンダを取り除き、再ハンダ付け、ここまでやれば、まずは治るはずと、気持ちを持ち直して、組み立て、音を出すと良好、エージングテストも3時間経過でOK。
フォノイコライザーのチェックと修理
お客様はアナログレコードをこれから、また聴きたいということでした。フォノイコライザーは幸い、チェックしてみると問題ありません。けれども、念のため、出力コンデンサとトランジスタを交換、フォノ切替スイッチをクリーニング。これで、良い音でアナログレコードが鳴るはずです。
アナログレコードプレーヤーを接続、カートリッジをエンパイア4000DIIIにして、聴き始めます。アナログレコードはCDのようなぎすぎすしたところがありません。やはり、CDは小音量時、ビット数が減少するので、サウンドが荒くなるのでしょう。いろいろ聴いて、サンサーンスの“交響曲NO.3”
TERACレコードで聴きます。パイプオルガンの地響きするサウンドはもの凄く、さすが、TERACの録音を素晴らしいと再認識しました。
最後に、底板、ボンネット等を取り付けて、フロントパネルをきれいに拭いて、また、エージングを6時間おこない、修理終了となりました。
修理完了
これで、製造後、38年のアンプが生き返りました。私自身、開発設計に取り組んだ関わり合いのある最初のアンプ。大友デザイナーのエレガントなデザインを眺めて、感慨に浸りました。
皆さまのおかげで、2016年を迎えることができました。
2016年も引き続きご愛顧をお願い致します。
昨今のオーディオ事情
オーディオ誌をご覧になっている方、円安傾向になって以来、円安の程度を超えて、輸入オーディオコンポの価格がひどく高価になってきました。輸入代理店は、海外メーカーの輸出価格の上昇もあると理由付けしています。¥100万円のコンポでもエントリークラスという有様です。
加えて、グローバル環境に対応するということで、日本のオーディオコンポ、とりわけ、カートリッジ、トーンアーム等の価格も異常に高価です。\70万を超えるカートリッジも販売されています。
高価な値付けでも強気なのは、中国のオーディオファンの爆買いがオーディオにも及んでいるからのようです。さすがに、輸入オーディオコンポの売れ行きは低落傾向で、この事態を憂慮した大手輸入代理店は一部海外コンポの値下げを11月に実施致しました。
一方、中古オーディオ品は、その価格から、程よく売れているようです。但し、ヤマト運輸が、スピーカー輸送事故の多さから、メーカー本箱品以外はスピーカー宅配引き受けを取りやめており、やむなく、ピアノ運送で運んでいる状況です。当然、輸送コストはそれなりにかかります。
マスターズアンプのこと
少し、話題が我田引水になることをお許し下さい。
コストパフォーマンス
マスターズ製品は相対的に安価です。これは、マスターズアンプを製作・継続できるだけで、利益は充分と私が考えているので、少しでもお安く提供するように、かつ、ユーザーさんの負担を軽減できるように考えているからです。
電源部の重要性
オーディオアンプは電源が重要ですし、問題点でもあります。その理由は、オーディオアンプの基本原理は、電源エネルギーをオーディオ信号で変調して、オーディオ信号を増幅して、スピーカーから音を出すからです。(Dクラスアンプは高周波で電源をスイッチングして、LCフィルターでオーディオ信号をろ過して取り出します。)
従って、リップル(整流しきれない交流成分)や電磁波ノイズがアンプ供給する電源成分に少しでも混入しては、著しくサウンド品位を落とします。
けれども、実際にはリップル成分がない電源を用意することはやさしいことではありません。交流電源からDCに整流する際、従来の回路ですと必然的にリップル成分、電磁波ノイズ成分がグランド回路に流れ込みます。
この大問題を解決するのが完全バランス増幅回路です。
具体的には、アドバンストZバランス増幅回路では電源回路がバランスフローテイング回路となっていますので、パワーアンプからスピーカーにリップル成分が流れ込むことが原理的にありません。
通常のハーフブリッジアンプでも、マスターズが採用しているXカレント回路にしますと、上記のような問題からフリーになることができます。
また、究極の方法として、電源電圧に12Vと制限がありますが、バッテリー電源駆動は清澄なサウンドが得られます。但し、バッテリーの電源供給能力は車用で100A以上ありますから、絶対にショートさせない注意が必要です。
Zバランス回路アンプをバッテリー電源駆動の場合でも、清澄さでは、交流電源からの整バランス電源方式よりもバッテリー電源が上回ります。
トランスのこと
トランス採用のパッシブプリアンプは大好評をいただいております。
通常のAC電源を採用したプリアンプとは決定的に違うサウンドです。電源不要ですから、電源や電磁波等による厄介な問題がまったくありません。また、パッシブプリアンプではノイズやひずみの発生がありません。
また、採用しているスーパーパーマロイコアは磁性体そのもの磁化特性が優秀で、ひずみの発生はありません。但し、磁性体は磁化されたときの振る舞いが絶好調になるには、ある程度のエージングが必要です。使いこなすことによってさらにサウンドパフォーマンスは向上します。この現象は、微視的には電子顕微鏡等で微少磁性体(磁区という)のふるまいを観測できるといわれています。
NFB設計
NFBは理論通りに作れば、大変有効です。けれど、現実のオーディオアンプでは、位相とゲインとの兼ね合いで、NFBは高域では位相のずれた形で掛かることになり、正弦波では良好でも、過渡信号では問題を引き起こします。
このあたりがNFBアンプのキーポイントです。
まずはオープンループ特性の周波数・ゲイン・スルーレート(高域パワーバンド)との関係を検討して設計・製作すれば、良好なアンプになります。
また、意外と無視しがちなことは負性抵抗によるアンプの超高域不安定性です。これは負性抵抗を打ち消す抵抗を付加すれば、アンプは安定動作となります。特にエミッタフォロア―回路には負性抵抗打消し用エミッタ抵抗付加は必須です。
新年のご挨拶
2015年を迎えました。みなさん、充実した日々を過ごしていると思います。
まずは、心身の健康です。気持ちの良いサウンドをお聴きになって、すてきな時間を過ごしていただくことを願っております。
2015年もよろしくお願い致します。
オーディオアンプのあるべき姿
昨年は、アドバスドZバランスアンプ、Xカレント電源回路の開発で、“アンプは電源が最重要!”、そして、アンプは“スピーカーのふるまい”を充分考慮して設計しなければならないと改めて感じております。アンプ設計者は、ともすれば、コントロール機能である増幅回路に気を取られ、上記ポイントを忘れがちです。
やはり、電源設計やスピーカー設計の経験を積んで、アンプ設計に係る事が重要と、この年になっても再認識しております。このポイントをベースに今後も邁進したいと思っております。
AU-900STAX/XHPについて
ところで、ここ2-3年、STAXのイヤーSPはじめ、ヘッドフォンヒアリングオーディオに人気があります。
やはり、大きな音で聴けることはオーディオの醍醐味です。けれども、他人に迷惑を掛けず、自分のサウンドワールドに浸れるヘッドフォンリスニングも大きな楽しみです。
特に、STAXのイヤースピーカーの空気感漂うサウンドは素敵です。
このことは静電力(クーロン力)で振動する発音体は動電(ダイナミック)型のような逆起電力が発生しないことに関係があります。
従って、ドライブするアンプのダンピングファクターは、静電型スピーカーにとって、その再生サウンドに理論的には関係がなくなります。
静電スピーカーのダンピングは、振動膜に掛けるバイアス電位によって決まってきます。
例えば、バイアス電位を下げていくと、サウンドは柔らかい感じで少し(2dB:300VDCで)音圧が下がります。逆に、バイアス電位を上げると、振動膜の張力が増し、ダンピングが大きくなります。STAXは長年の経験とノウハウにより、最適バイアス電位を決めていると言っています。
そうなると、STAXイヤースピーカーをドライブすることでの重要ポイントは、振動膜をひずみなく動かすことです。
それは、振動膜を両側から均等に動かす(バランスドライブ)ことなのです。
MASTERSのSTAXイヤースピーカーをドライブできるアンプは、真空管方式と半導体方式とがあります。
コンパクトで、費用セーブできるXカレント採用多用途プリメインアンプ“MASTERS AU-900STAX/XHP”が最近特に人気があります。
ブロックダイアグラムに示すように、STAXイヤースピーカーのドライブ回路はクローズドループで構成され、電源(電磁波ノイズ)、アース電位に影響されることがありません。クリーンなドライブ環境で、STAXイヤースピーカーをバランスドライブします。
また、このアンプにはXカレント回路が組み込まれ、スピーカー再生にも優れたパフォーマンスを示します。また、近年、動電(ダイナミック)型の進歩は顕著で、なかなかのサウンドです。特にゼンハイザーのヘッドホンは発音体の口径が大きく、振動系マージンが充分すぎるほどあり、STAXイヤースピーカーとは対照的な切れ味の素晴らしさを感じます。
このように、多くの楽しみを1台のアンプでできてしまうことは、ハッピーなことと思いませんか!
みなさん、ともかく、楽しく、オーディオに取り組んで下さい。
【図1】“MASTERS AU-900STAX/XHP”のブロックダイアグラム図(スイッチは省略)