バランスドライブアンプ“MASTERS BA-225FB/MOS”、トランス式パッシブプリアンプ“MASTERS CA-777S”、“MASTERS CA-999FBS”は、ご好評をいただいております。
さらに、バッテリードライブでアンプを駆動しているお方も確実にふえておりますし、現在、カスタムアンプとして製作中のアンプもあります。
今回、盟友デザイナーの大友さんから、“私にも、これが一番良いと思うアンプを作ってくれ”との要請を数か月前から受けていました。日々の製作に没頭することが多く、なかなか試作に取り掛かれませんでした。大友さんは、先にアンプ図面を書いてきて、さらに少し経ったら、シャーシ・ケースを作って送りつけてきました。
そうなったら私も意欲が湧いてきました。
そこで、以下のような内容のアンプにしようと思いました。
- アンプはバランス増幅アンプ形式にする。
- 電源は、ピュアで、電源インピーダンスが低く、ドライブ力のあるバッテリーを採用する。
- 音量調整はパッシブプリアンプに採用しているトランス式アッテネータ(トランスATT)を搭載する。
このような、ある意味、究極のアンプの内容を盛り込んで作ろうということにしました。大友さんも、この内容に賛同してくれました。
さて、実際、トランスATTは電源トランスからの誘導を受けやすいので、この問題は発生しないようにと、バッテリードライブ形式とすることは必要条件かもしれません。(商用電源方式にするなら、電源部は別シャーシに用意すれば問題解決します。)
また、トランスATTをバランス用に4個搭載するのは、コスト・スペースの点で無理があり、やむなくバランス入力は諦めて、アンバランス入力(大友さんのCDプレーヤーはバランス出力がないという)専用として、このアンバランス信号をバランス変換してバランス増幅アンプに入力させる方式にしました。
最大出力は、バッテリードライブですから、最大パワーは8Ωスピーカで18W+18Wというところです。
時間を見つけては、少しずつ組立、やっと5月になって音が出る段階になりました。
写真は、配線した直後なので整理されていませんが、あえて掲載します。
結果は以下のようになりました。
- まず、ノイズの発生は、周囲に電源トランスを置かないバッテリードライブとしたので元々ローノイズですが、さらにローノイズに仕上がりました。
- 周波数特性、ひずみ、ダンピング・ファクターなど、電気的特性も問題なく優秀でした。
- さて、一番気になるサウンドパフォーマンスです。これは、一聴して好みを超えて素敵なサウンドであることは理解できました。静寂のなかで純粋にサウンドだけが耳に届く感じです。低域の重心、がっちり感も充分です。ボーカルのパワフルさ、透明感もエクセレント、コーラスの場合の混変調感も、リアルそのものと聴き取れました。また、パルシブなサウンドも立ち上がり感、爆発感、切れ味が素晴らしく、言うことはありません。
自己陶酔かも知れないと、落ち着いて2週間ほど聴いてから、大友デザイナーに発送致しました。
大友デザイナーからは、“いい音!大変満足!”とのありがたいコメントをいただきました。事実、大友デザイナーにTELすると、最近はいつも音楽が聴こえます。
“カー・バッテリー(28Ah)を使っているけど、まるで電圧低下がないような電圧測定結果!”ということですから、このペースでは2~3カ月に一度くらいの充電で充分でしょう。充電は、わたしの説明・注意に従って、安価(¥2,980)な充電器で充電しています。
そんなわけで、この方式のアンプを、できれば製品化したいと思っております。
とりあえず、皆様にお知らせいたします。
これまでホームページ上には、大友デザイナーによるデザインスケッチで、プリメインアンプ“MASTERS AU-890L”を紹介しておりましたが、やはり作ってみてのご紹介が筋ということで、1台製作しました。
- 回路は、大好評のプリメイアンプ“MASTERS AU-880L”と基本的には同様です。電源トランスはオーソドックスなEI型タイプを搭載しております。電源トランスのタイプにより、電源変動率だけでなく、動作時のリケージフラックスが異なるので、微妙にサウンドは異なるようです。AU-880Lより、わずかにどっしりした感じが聴き取れます。
- 電源ケミコンは、USA製のスプラーグ製をメインに搭載しております。容量が多くはないのにそれなりに大型になっているのは、電解箔のエッチング倍率は低く、等価抵抗分が低いと思われます。従って、好ましいサウンドが出てくる可能性が高いです。近年のケミコンのエッチング技術は凄く、小型で驚くほど容量が取れます。抵抗分(ESRと言う)は別として。
- 操作は、ロータリースイッチとオーディオ全盛時代に使われたレバースイッチでおこなえるようになっています。とっくに製造は完了しているので、在庫分を使ってのご提供です。使用感と見た目は、素晴らしいと思っています。
- マスターボリュームはアルプスのデテント型を採用しています。このボリュームのL/R減衰特性の素晴らしさには目を見張ります。特に、-50~ー75dBの減衰特性のL/R偏差の正確は、プロ用の東京光音電波のボリュームも素晴らしいですが、それを上回ります。音質もアキュレートそのものです。
- AU-880Lで好評な部分は、パワーアンプへのダイレクト機能です。AU-890Lでは、レバースイッチを下に倒せば、ボリュームを通らず、パワーアンプと動作します。
- AU-880L同様、このアンプの電源ON時、立ち上がり、電源OFF時の立下り特性が極めてスムーズなので、SPリレーは通ることはなく、しっかりしたレバースイッチを通るだけとなっております。万が一のプロテクションはヒューズで対応しております。ブレーカースイッチへのカスタムは受け付けますので、ご利用下さい。
- 肝心のサウンドは、このようなスモールパワーとは思えないようなパワフルさで、かつ明快、分解能も良好、繊細さもあり、良好なサウンドと思います。将来プランとして、パッシブプリアンプ“MASTERS CA-777S”と組み合わせれば、さらに精緻なサウンドが聴けると思います。
P/S:
私の気持ちの拠り所としていた音響機器メーカーの山水電気株式会社が東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されました。昨年、親会社ザ・グランデ・ホールディングズ・リミテッド(香港)も事実上の倒産状態に。資金調達のメドがまったく立っておらず、今期の定時株主総会も延期していました。 東証では、5月3日付けで上場廃止となる予定。これで、山水電気は完全に消滅になります。
MASTERSのトランス式パッシブプリアンプは引き続き好評で、現在も多くの問い合わせ、カスタムリクエストを頂いております。当社のようなスモールスケールの会社では、皆様のやってみたいこと、こうして欲しいことを検討し、できるだけ実現することに努めております。
今回は測定環境を整えて、発振器の低ひずみを実現して、発振器の残留ノイズを性能限界まで低く致しました。
少し話がそれるかも知れませんが、大手メーカーがデジタルアンプ開発に使うパソコンと連動するオーディオプレシジョンでのひずみ測定は驚くほど低ひずみになりますが、これは、ハイパスフィルタを20kHzにして、ひずみ高調波を測定できないようにして、低ひずみデータが出ている場合が多いのです。
今回の測定では、当方の発振器で発振器残留ひずみをノイズも含めて、何とか0.003~0.004%に致しました。
そのうえで、トランス式バランス型パッシブプリアンプ“MASTERS CA-999FBS”について、雑音ひずみ率を、通常より広く60Hz~20kHzまで測定してみました。50Hz地域では、50Hzのひずみ測定はビート現象を起こすので、ずらすことがおこなわれます。
ところで、オーディオエンジニアでさえ、トランスというと、ひずみがあるとか、帯域が狭いとかと誤解している方が少なくないのには少し驚きます。シンプルな電源トランスでさえも、多くの誤解や知識不足があります。このことは、学校での電磁気学の教育の悪さで、教える先生方でさえ実態が分かっていないことが多く、仕方なく、マックスウエルの微分方程式を数学的にもて遊び、学生を困らすだけだと思います。かって、タムラ製作所に入社したとき、実態に基づいた理論・設計法を教えられ、当時のタムラ開発部長のH氏に電磁気学教育のひどさをお話しましたが、東北大学出身のH部長は仕方ないといっていました。強いて言えば、トランスメーカーがトランスに関する技術書を出版すればよかったのですが、核心技術を公開したくない気持ちが出版を阻んでいます。
話が、余計なところにそれてすいません。
さて、グラフに示すように、ひずみの少なさは、素晴らしさに尽きます。高域は、理論的にもトランスのひずみは非常に少なくなります。周波数が高くなればなるほど、磁気飽和を起こすことになるからです。けれども、採用しているコアの選定を誤ると(磁気材料やアニール処理等で)、高域でもひずみが下がりきらないことが起ります。
トランス式バランス型パッシブプリアンプ“MASTERS CA-999FBS”ではトランス式パッシブプリアンプ“MASTERS CA-777S”と同様、スーパーパーマロイを採用し、適切な巻線を施しているので、ワイドレンジで低ひずみを実現しております。
アンプの場合は、プリアンプといえども、高域では一般的にひずみは悪化します。また、本質的にアンプは電源成分をオーディオ信号で増幅デバイスを変調(コントロール)して出力しますので、ひずみはNFBでかなり改善できますが、ノイズ成分は必ず加算されます。
オーディオエンジニアやオーディオ評論家でも誤解している方が多くおられますが、いくらNFBを掛けても、ゲインがその分低下するので、残留ノイズ絶対値は下がりますが、アンプのS/N比は、デバイス・デバイスに掛ける電圧・流す電流によって決まってしまいます。
トランスは、トランス自体はノイズを全く出さないので、S/N比を悪化させることはまったくありません。いわゆる、“オーディオ信号に何も足さず、なにも引かず、そのまま伝送する”ということになります。但し、磁性体の選定や設計が拙劣では成立しません。
また、人間の聴覚は、ある意味、電気的測定より優れた検知能力が知られておりますが、実際、今、ヒアリングしながら聴いてますが、まさにピュアなサウンドを出してくれている感じで、ぞくぞくします。ちょうど、2月6日にオペラシティで聴いたばかりの“春の祭典(ストラビンスキー)”を聴いてますが、不協和音や変拍子が連続する部分でも、綺麗に、明快に聴こえます。
特に、ある程度のニア・フィールフィルードで、それほど大きくないレベル(70~80dB程度のサウンドレベル)でヒアリングする方には、音楽の細部まで聴こえて、残留ノイズ成分のないこのパッシブプリアンプで、オーディオ趣味を心ゆくまで堪能できます、まさに、最適と思います。
スピーカをバランス増幅したい方には、このトランス式バランス型パッシブプリアンプ“MASTERS CA-999FBS”を、従来のハーフブリッジ式アンプで充分という方にはトランス式パッシブプリアンプ“MASTERS CA-777S”をお勧めします。
MASTERS CA-999FBSのひずみ特性