小型モノラルパワーアンプ“MASTERS BA-50M/CUSTOM”を紹介します。
静岡在住のOさんからお電話をいただいたのは、昨年秋でした。
お話は、“コンパクトで、スモールパワーで良いから、音質の優れたアンプを作って欲しい”とのことでした。
“老齢だから、少しでも軽いほうが良いし、いろいろとテストもできるようにモノラルアンプにしたほうが良い”とのことでした。
Oさんのお使いのスピーカについてお尋ねすると、ゴトーのホーン、マルチチャンネルアンプで、4WAYないし5WAYをしたいそうです。
ゴトーホーンドライバーは110dB/W以上の高効率です。1Wで110dB、2W入力させれば116dBの大音響になります。また、ゴトーホーンドライバーは5W以上入力させれば壊れてしまうといわれています(耐入力5W)。従って、3Wもあれば充分とのことでした。
いろいろと多忙で昨年は作れず、今年もなかなか着手出来ず、設計が終了したのが6月末でした。
なるべくコンパクトで、しか格好が良いデザイン、合理的構造を実現したく、デザイナーの大友さんと打ち合わせ、スケッチ、図面を書いてくれて、それに電源部、アンプ部とを入れ込んでレイアウトしてみて、これならいけると踏んで、製作に踏み切りました。
これまで、カスタムアンプでモノラルアンプのピュアな響きは好ましいと感じていました。
L/Rクロストークのない、また、電源部のL/R相互干渉のないモノラルアンプは、特に問題は見つかりません。ただ、場所を食うし、費用も割高になるくらいです。また、プリアンプを用意すれば、パワーアンプで音量をコントロールする必要がありません。そこで、音量コントロールするボリュームを省きました。
更に、Oさんは、“ゴトーホーンドライバーは効率が良いから、増幅度もそれほどいらない”とのことでした。そこで、増幅度(ゲイン)12dB,18dBと切替可能としながらも、通常パワーアンプの20~26dBゲインに比べ、大きく下げました。
ゲインを下げることによって、パワーアンプの残留ノイズはその分下がり、元々残留ノイズの少ないマスターズパワーアンプがさらに残留ノイズが下がり、10μV(80KHzLPF)以下と微少レベルになりました。
このことはマッチングトランスによって超ローノイズになったマスターズアンプと良い勝負です。
電気的性能もすばらしく、ひずみは測定用発振器と同じレベルの0.009%以下(1kHz/8Ω)、高域でも0.012%(10kHz/8Ω)とすばらしい値となりました。静特性だけではアンプの良さは表現できませんが、静特性の悪いアンプより、良いアンプのほうが望ましいことは確かです。現在のオーディオ科学において、動的な性能についてはオーディオ全盛時にいろいろ研究されましたが、有益だったのはTIM(動的なIMひずみ)についての考察がありましたが(マッティ・オタラ氏)、具体的な測定法について示されませんでした。
残念ながら、最終的には、リスナーの感性にゆだねるほかありません。
さっそく聴いてみました(TANNOY アーデン)。
まず、切れ味がすばらしい、音の分離、分解能が素晴らしい。
低域の表現がリアル、オーバーダンピング感はない。
ボーカルの表現が魅力的でした。
ツッティー(全奏)、FFでも濁らず、クリアに表現し、のびのびしたサウンドでした。
このアンプは既に発送して手元にありませんが、来月、再度作ります。
関心のある方は、お問い合わせください。リーズナブルな費用で製作が可能です。
最近発売した、プリメインアンプ“MASTERS AU-900L/HP”,““MASTERS AU-900L”は、大好評をいただいている““MASTERS AU-880L”,““MASTERS AU-890L”の第3世代として、開発致しました。
パワーは(12W+12W)と十分なパワーを有しており、アンプ回路はインバーテッド増幅回路に磨きをかけております。具体的には、最適動作の検討結果、図に示すような極めて優れた電気的特性を得られています。
但し、使い方は、“ユーザーさんに少し時間をいただき、ゆったりとオーディオを楽しんでいただくことが重要”ということが、ひずみ特性グラフから読み取れると思います。
電源ON直後は、1KHzのひずみは極小で、極めて優れています。高域10kHzでは、安定動作のため、NFB量を減るように設計してあるので、0.05%程度となっています。この結果はオーディオアンプの常識から言えば、優れたものといえましょう。ところが、電源ON後、20分以降では、十分に回路が熱的均衡して、アイドリング電流が少し増加して、オープンループ特性が改善、安定し、1kHzに変わらない優れた低ひずみを示すことです。この成果がAU-900Lの優れたポイントです。無理にNFB量を増やして、NFBのデメリット(TIM歪等)が出てくるのを巧みに防いでおります。
具体的には、NFBを掛ける前のアンプ本来のオープンループ特性に、十分な発振マージンを取ってあります。
また、それだけでは、アンプの安定動作には充分ではありません。特に、半導体回路の入力回路(ベース,ゲート)には発振を生じる負性抵抗ができやすくなります。これは、エミッタ(ソース)フォロア一回路だけでなく、コレクタ(ドレイン)フォロアー回路でも発生します。負性抵抗による発振現象については、どのオーディオ回路書籍を見ても、ほとんど触れられていません。多くは、体験的に発振防止ノウハウとして、設計試作時に現場対応し、飛びつき発振,寄生発振防止ノウハウとして処理してしまいます。(発振検出に効果的なのはAMラジオ受信です。発振すれば、“ザー”ノイズとして、発振認識できます。)
その発振が超高域(100MHz以上とか)ですと、オシロスコープで観測できないときは、大メーカーの設計者、品質保証関係者でも見逃していることは少なくないでしょう。(特に、近年、普及してきたデジタルオシロは過渡現象の可視化には有効ですが、高周波領域の発振では、高周波数用オシロスコープのほうが見つけやすいです。高周波発振がありますと、オーディオ帯域の電気的特性は良好でも、聴いてみて、どこかぎこちなかったり、表情がうまくでなかったりすることが生じてしまいます。)
私が眺めたオーディオ書籍のなかで、唯一、負性抵抗による発振が触れられていたのが、尊敬する黒田徹さんの書籍でした(はじめてのトランジスタ回路設計:CQ出版)。
その解決方法で有効な方法は、負性抵抗を実抵抗で打ち消す(中和)することで安定動作になることを数式で示してありました。また、回路によっては、CR回路負荷によって改善できます。
以上のような配慮をおこなったAU-900Lは、極めてしなやかで表情豊かなサウンドを奏でてくれます。さらに、コンパクトで、価値感あるサイドウッドを排した素敵なデザインも魅力です。価格は6万円台とリーズナブルです。
さらに、すでに発売しているMASTERS定番アンプにも、当然、以上のような考慮を払っております。
【MASTERS AU-900L ひずみ率特性(時間経過特性)】
最近、発売したMCトランス“MASTERS MC-203”が好評です。MCカートリッジは、相対的に大電流・小電圧特性ですので、MCカートリッジの特性を生かし、電流・電圧変換して、フォノイコライザを動作させることが合理的です。
この変換をおこなうのが、MCトランスです。トランスは、原理的にノイズを発生することがないので、S/N比の低下がありません。また、MCトランスの周波数特性はMCカートリッジのインピーダンスに対して、それよりも高いインピーダンスで受けると、低域周波数特性、超低域ひずみがさらに改善されます。さらにMCトランスが低い出力インピーダンスで送りだし、フォノイコライザが高いインピーダンスで受けると、周波数帯域は低域~超高域にまで広がります。MCトランスの設計は最大パワー伝送でなく、電流~電圧変換するものですから、インピーダンスマッチングを取ると、かえって狭帯域になってしまいます。インピーダンスマッチングは最大パワー(電力)を伝送する際には重要ですが、MCカートリッジの場合にはその考えはマッチしません。
さて、“MASTERS MC-203”では、78%のスーパーパーマロイコアを採用していることは、低ひずみをキープする意味からも重要です。それよりも、巻線の太さや、巻線数は、試作や試聴を繰り返す作業から得られたノウハウの世界です。
“MASTERS MC-203”は低インピーダンス(オルトフォンタイプ),中間インピーダンス(オーディオテクニカタイプ),高インピーダンスタイプ(デノン,EMTタイプ)がすべて使えるような設計になっています。
“MASTERS MC-203”では、どのインピーダンスでも、すべての巻線が動作するようなオートトランス式としております。この方式は従来の1次、2次とを分けて接続する方法とは違います(結線図参照)。
この方法の提唱者は故、金子英男(オーディオ評論家)さんでした。1970年代の後半、私はサンスイのプリメインアンプにMCトランスを搭載することを提案し、責任者の了解を貰い、仕様決定を任されました。
そこで、どのようなMCトランスにすべきかをタムラ製作所と相談し、担当のY・Yさんは、コア,コアサイズ,巻数等々、実に30種類以上の試作品を作ってくれました。
ある程度、数種類を選択して、金子さんにアドバイスを受けたところ、いろいろ聴いてみてから、「思い切ってオートトランス式にしてみないか」と提案されました。当時、私は、トランスの特性・設計には、それなりの知識・体験を持っていたので、オートトランスは、せいぜい昇圧比は3倍(10dB)くらいが限界と思っておりました。金子さんは、「1:30以上の昇圧でも理路論的に成り立つから、やってみて!」と言われ、その場でMCトランスの結線を変更して、オートトランス式結線にしてみました。すぐレコードを掛けて、オートトランス式MCトランスのサウンドを聴くことになりました。
その結果は、従来の伝統的な接続よりもワイドレンジ感があり、特に、中高域の見通しがよく、切れ味が驚くほど改善されたように聴こえました。
但し、ヒアリング結果が良くとも、致命的な電気的な欠陥があるといけないので、会社に戻って特性チェックをしたところ、デメリットは見つからず、社内のヒアリング結果においても、“良好!”との感想が圧倒的だったので、サンスイ AU-D607Fシリーズ以降、搭載したMCトランスはオートトランス式結線となりました。
というような背景もあって、“MASTERS MC-203”はオートトランス式結線方式です。このような方式は、1次,2次間の巻線容量、リーケージ・インダクタンスの影響を受けなくなります。また、MCトランスの入力タップ、例えば、低インピーダンス(LOW),中間インピーダンス(MID)巻線は従来の接続方法ですと、巻線が一部、遊ぶことになり、巻線間の結合が悪化します。オートトランス式はそのようなデメリットは生じません。
“MASTERS MC-203”は、しなやかに、伸びやかに、切れ味よく、音場は広がり、低域の迫力も充分で、コーラスのような実演でも混変調を起こしやすいような音源も分解能良好で聴くことができます(例えば、ベートーベンの第九、ベルディの“レクイエム”とか)。
さらに、女性ボーカルも魅力です。本当に久しぶりに、アナログレコードを聴き続けてしまいました。私の持っている代表的MCカートリッジは、オルトフォン MCローマン,SUPEX SD-909,FR、DL103,テクニカ AT33シリーズ等です。
MCトランスは微少信号を扱うので、設置場所の選択にはご留意ください。MCトランスを紙の箱等に入れて動かしてみると、最適の場所が見つかります。特に、電源トランスの近辺、電源トランスから導かれた誘導磁界のあるところは、なるべく避けて下さい。もちろん、電磁シールド・静電シールドを施してあるので、実用上、充分なパフォーマンスは得られますが、できるだけベター,ベストに近いかたちで使っていただければ、最高のサウンドが聴けるはずです。
【従来の結線方法】
【新オートトランス結線方法】