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究極のリアルサウンドが聴けるか!マスターズのパッシブ・プリアンプ

最近発表したトランス式パッシブ・プリアンプ(MASTERS CA-777SMASTERS CA-999FBS)は、おかげさまでご好評をいただいております。ご注文もお問い合わせも多くいただいております。
私の方は、そのパーフォマンスや出来栄えを、極力客観的に評価しているところです。

1.トランスを取り巻く技術的環境

最初に話が、少し大きすぎて、また、グチっぽくなるのをお許し下さい。

オーディオアンプ設計者は、概して他の分野にはそれほど詳しくない方が少なくありません。例えば、スピーカの内容とかふるまいは、それ程ご存知ないようです。
だから、“オーディオアンプの特性測定は抵抗負荷でよし!”とすることが今もってほとんどです。1970年代、ステレオサウンド誌で、故・長島達夫さんがダミースピーカを作って各社のアンプを測定し、ユニークな測定結果を得ていました。しかし、そのようなデータの公表はオーディオ各社の申し入れもあって、公表されませんでした。(もう、時効として良いでしょう。)
当時サンスイでは、負荷測定装置は自社製で、抵抗負荷とダミーSPとが用意されていました。このダミーSPの特性は、JBL LE8Tのインピーダンス特性と同様にしたLCRで作られていました。今にして思えば、もっとインピーダンス変動の大きいマルチウエイSPのインピーダンス特性を作るべきでした。
一応、安定動作とか異常動作していないかをチェックしていました。私は、他社のアンプ設計部には結構出入りしていたので、測定装置を見る機会がありましたが、ダミーSPまで備えたのはサンスイだけでした。あるメーカーでは、安定度試験用として容量負荷が0.01μ~1μFまで備えた負荷装置がありました。
少なくとも、SPはボイスコイルが動く逆起電力を発生するものなのです。このあたりの問題は、長年ラジオ技術誌で小倉さんが追求されていましたが、残念ながらその説明が不十分なために、真意は伝わらなかったように感じていました。

一方、スピーカ技術者は、オーディオアンプ技術にはそれ程詳しくないようです。
このようなことを述べるとお叱りを受けるかも知れませんが、オーディオシステム全体を知って欲しいと思っています。むしろ、ごく一部の評論家さんのほうが詳しく理解されているのをお見受けします。

そのようなことは、我々の命をあずかる医学の分野でも、専門以外の科について詳しい方はそれほど多くないと、従兄弟の循環器医師から聞いたことがあります。

それはそれとして、アンプ技術者ではトランス関係になると途端に詳しい方は少なくなります。一応、電子工学専攻の中で電磁気学を修めているはずですが、大学の電磁気学の教育内容はおそまつで、数学的解析に終始しており、学生はこの理論が実際にどのように使われるかは分からないのです。それは教えている教官が分かっていないのですからどうしようもありません。特に、トランス設計に関する文献はほとんどないといって良いでしょう。磁気材料に関する文献は少しありますが。

更に、電磁気学は100年以上前に確立されているので、古臭い技術と感じてしまうようです。そういう私も、学校では電磁気学が理解できず、トランスのタムラ製作所に入社して、実地で教えて貰って興味が湧き、少しは技能習得したつもりです。

タムラ在籍時に、トランス設計のベテランに“トランス設計参考書を発刊したら!“と進言したことがありましたが、“ノウハウを公開することになるので、控えたい!”ということでした。日本のトランス技術は、アメリカのウエスタン・エレクトリックやUTCを範としてきましたが、今から考えると、当時でもうアメリカの技術を追い越していました。それは、日本人の細部まで改善する能力の高さと思います。さらに当時は、追いつき追い越せという覇気もありました。

そのような状況で、トランス各社は独自にその技術ノウハウを蓄えてきました。タムラ,LUX,サンスイがそれで、そのあとTANGO(平田製作所)が続きました。

当時、若かった私は各社の出力トランスを分解して、その巻線法・コア材質・組み合わせ方等を調べると、驚くほどの秘策が施されていました。それから多くの年月が流れ、オーディオアンプはまた、真空管アンプが見直されてきました。
 
真空管アンプのシェアは外観の立派な中国製アンプが多くを占めているようですが、そのサウンドのキーパーツである出力トランスは、その電気的性能、サウンドから、当時の上記トランスに及ばないように感じています。それは、サウンドよりも外観の立派さを重視する中国人の嗜好からは許されることだし、外観の満足度もオーディオの重要なファクターです。
けれども、香港、シンセンあたりの中古オーディオパーツ店では、日本製中古トランスが相当の高値で販売されていると、中国で活躍している技術者から聞きました。

昨今の急激な円高で、このような技術は消え去る恐れもあります。何とか、日本のトランス会社に頑張って欲しいと願っています。

またまた話題がそれますが、最近のNHKのAM放送で、“アメリカは、何故これほどまでにドル安にこだわるのか!”という質問を有識者に問うていました。
有識者は“ドル安になっても、アメリカから世界に輸出する製品がない。生産を海外に委託してしまったので、そのノウハウもない!ただ、アメリカはそう思い込んでいるだけ!”と答えていました。
このことは、10年後の日本の姿を予測しているような言葉です。“10年後に日本の財政危機が破綻して1ドル¥200に低下しても、輸出するものがない!”ということになります。経営者はそれどころではない、会社の存続がない!と言われるでしょうが、適性経営規模で国内で頑張れば、ノウハウや技術は保たれるでしょう。
そして、大規模な産業構造の転換は“国家プロジェクトとともに頑張ればよいのです!”今後、水産業は石油産業を10年で追い越すでしょう。

ごめんなさい!つい、不穏当なことを記してしまいました。でも、本当のことだと思い込んでいます。

2.パッシブ・プリアンプについて

電子工学を優先するアンプ技術者は、トランスをオーディオ回路デバイスにすることは真空管アンプ以外には考えないのが普通です。
具体的に、A社OBの方に、“トランス式パッシブ・プリアンプはどう思いますか?”と尋ねると、“良く分からないけれど、ナローバンドで、ひずみも多いのでは!”と言われてしまいました。かなり誤解されています。

トランスとアンプの大きな違いは、トランスはエネルギーの伝達・変換であるのに対し、アンプは電圧・電力をコントロールするものです。また、トランスはそれ自体ではノイズはまったく出さなく、発振することもありません。アンプは必ずそれ自体のノイズを出します。

次に、周波数特性は、単巻線タイプの場合、2次巻線がないので、漏洩インダクタンス、浮遊容量の問題が極小で、高域の周波数特性については、アンプ以上にワイドレンジになります。低域については、低域周波数において充分なるインダクタンスが必要です。これもコアの断面積、コアのμ、巻数を適切に設計すれば、超低域(5Hzあたり)から200kHz以上まで、充分フラットに出来ます。

MASTERS CA―777Sの周波数特性を掲載しますので参照ください。発振器の性能と同じです。

最後に、ひずみですが、これはひずみの少なく(コアの材質、アニール処理)μの大きいコアを選択し、低域周波数でコアが磁気飽和しないような巻数(入力電圧、周波数に対して、インダクタンス充分とる)とすれば、ひずみは生じません。発振器のひずみと同じです。このようなことを突きつめて、CA-777S、CA-999FBSは設計されています。

さて、電気的性能が優れてからといって、サウンド(音質)がおいしいかは、ユーザーさんの嗜好はあるにせよ、今回は最上級のおいしさを生み出せたと思っております。

その秘密はいろいろありますが、やはり、コアの選択と適切な巻線設計が肝要でしょう。

そのサウンドは“何も加えず、何も失わず!”ということが当てはまると思っています。リアル・澄み切った・情報量が多いといった表現語が浮かびます。パワーアンプは、できるだけ特別な音色を持たない低ひずみのアンプが最適と思います。また、このパッシブ・プリアンプでは、電源ケーブルの問題から解放されます。

MASTERS CA-777S 周波数特性

MASTERS CA-777S ひずみ率


新製品パッシブプリアンプの登場

トランス式アッテネータ/パッシブプリアンプを相次ぎ製品化しました。

私は、最初に就職した会社がタムラ製作所であったせいか、トランスにはずーっと愛着がありますし、その重要性やメリットを認識しています。特に、NFBもなく、これだけのワイド・バンドや低ひずみが達成できることは、この原理(電磁誘導)を発見した方に敬意を感じています。

新製品はアッテネータとパッシブプリアンプの2種類あります。
両者は混同しそうですが、その違いは、トランスのタップの選択の仕方で、ゲインを持たせたのがパッシブプリアンプです。従って、パッシブプリアンプでも、ゲインセレクタをゼロにすればアッテネータになるので、使い勝手からすれば、パッシブプリアンプをお勧めします。

1台限りのトランス式パッシブプリアンプ“MASTERS CA-777 CUSTOM”は瞬く間に、売れてしましました。やはり、トランスは増幅するのではなく、エネルギー変換することができるので、パワフルにパワーアンプをドライブできることにそのサウンドの良さが現れるのだと思います。

ジャズファンの方やロックファンの方には特にマッチすると思います。また、大編成のクラシックや、熱のこもった室内楽の奏者間の意気も感じることもできます。

調整範囲等のカスタムにも対応できますので、どうぞご相談ください。


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