発売したばかりの、バランス増幅真空管パワーアンプ“MASTERS BA-218FB/OS”の原型モデルになるカスタム機を、7月頃Kさんに納入致しました。
そのKさんから、以下の感想が寄せられました。製作者が音質について語っても、客観性を欠くこともありますし、多少自己陶酔ということもあるでしょう。
製作者の私としては、非常に良いアンプに仕上がったと思って送りました。
皆様には、そのままご紹介いたします。
出力トランスのカスタム設計・製作を担当した橋本電気株式会社のスタッフも大変喜んでおりました。
“今後もがんばる勇気が湧いてきた”と言ってくれました。
フル・バランスシステムによるサウンドとは!?
2008年9月28日のブログでご紹介した300Bのバランスプリアンプに、EL34のバランスパワーアンプを制作し、真空管アンプによるフルバランス・セパレートアンプが遂に完成致しました。
先週末にカスタム注文された方のメインシステムとして収まりました。
写真で示すようにパワーアンプはEL34pp(3結)モノブロックアンプです。回路は当然バランス増幅構成です。
出力トランスは永年優秀な出力トランスとして定評あるタムラF-683です。バランス構成ですから各々のアンプのボリュームは2連となります。ここではオーダーされた方のリクエストで東京光音電波のプロ用を採用しています。カップリング・コンデンサはアメリカで最も評価の高いInfiniCapを採用しています。
モノブロックアンプなので作り手としては面倒ですが、L/R対称として格好良い外観となっています。シャーシは1.6mm厚の鋼板を採用した強固なもので、そこにブラックの焼付塗装を施しました。焼付塗装とは塗装膜を強固にするために塗装後赤外線ランプで加熱する工程を施すものです。素人がラッカースプレー塗装をやっても何かにぶつけるとすぐはがれてしまうのと比べて、さすがプロの仕事は違います。
このパワーアンプは16Wの出力で通常のリスニングルームでは充分な出力といえましょう。
さて、これにフル・バランス300プリアンプの出力を接続します。手持ちのCDプレイヤーもバランス出力があるので、CDプレイヤーからパワーアンプまですべてバランス伝送、バランス増幅でスピーカをドライブすることになります。
キャノンケーブルで接続し、スピーカーケーブルをつないで、いよいよ音出しです。
プログラムソースはまずはアイリッシュサウンド、“ケルティック・ウーマン”です。
アイルランド人は音楽的才能に恵まれて、あのジョン・レノンもアイリッシュです。このプログラムソースは音作りセンスが大変素晴しくエフェクティブな音楽が展開します。まず、音の重心の下がった事がはっきりと分かり、低音、中低域のサウンドがズシンと決まります。そしてセンターにフィメールボーカルが心地良いエコーを伴って定位します。
サポートする楽器は多彩で打ち込み系のものもあるようですが、ミクシングセンスが良く素晴しく、眼前に音場、前後、左右に拡がります。通常のアンプシステムですと、素晴しい事には違いないのですがこれ程の迫力、重心の下がったドスの効いたサウンドでありません。
次に聴いたのはクラシック、ゲエルギエフ指揮、マリンスキーによる“春の祭典”です。
この多彩な複雑な技法によって書かれた名曲は、録音が良くないと感激も半減です。幸い、この組み合わせによる演奏は昨年11月に聴いているのでかなり鮮明に覚えています。この曲はストリングスにより、管楽器やパーカッションが活躍します。識者も演奏するオケも気を抜くと間違ってしまう難曲です。CDスタートしてから数分、グランカッサの一撃!このスゴミはこれまで聴いたなかで最もスリリングな体験でした。さらに変拍子による各楽器間の絡み合いともすれば混濁したりしてしまうこの曲が実に鮮明に聴けたのです。
“春の祭典”はコンサートでも真剣に聴くと疲れます。私はこのシステムで聴いて心地良い疲労を覚えました。
最後に、JAZZを聴く事にしました。
最近、亡くなったピーターソントリオによるあの名曲“You Good Look To Me”を選曲しました。冒頭、ベースによる美しいテーマに始まり、軽快なピーターソンのピアノとドラムスが入り込むトリオが一体となります。この曲はもう何百回聴いた事でしょう。
このシステムでひととおりヒアリングを終えたところで、客観的になるためにKT-88pp(中国製)のノーマルアンプがあったので、300Bバランスプリアンプはアンバランス出力もあるのでこのアンプに接続し、聴いてみました。
一応、音楽が鳴っているのですが、中域以上だけの音楽が鳴っている感じです。念の為、測定器で周波数特性、ひずみ測定してみると真空管アンプとして水平の出来です。残念ながら欲求不満を覚え、ヒアリングを中断せざるを得ませんでした。どうしてそうなってしまうのかは探っているといろいろあるでしょう。
何と、このアンプ、ものすごく外観がキレイで塗装仕上げなど惚れ惚れします。しかし、音質に関してのノウハウはまだまだ我々ジャパンの方にアドバンテージがあるという感じがしております。でも、真空管アンプの安定性、ゆったり感を味わえる事はできるので売れ行きがよいのは分かります。別に国粋主義者ではありませんが、日本はやはり、まじめさ、緻密さを生かしたモノ作りが向いている民族と言えるでしょう。
そういえば、アメリカ産業が健在な頃、“BY AMERICAN”という、傾向がアメリカ国民にありました。アメリカ製品に誇りを持っていました。ところが、モノ作りを捨てたアメリカの金融産業の破綻は情けないことです。
コツコツとモノ作りをやっていくのが農耕民族出身の我々日本人が生きていく道です。
話がかたくなってしまってゴメンなさい!
“MASTERS BA―225FB/MOS”のシャーシを利用した純Aクラスパワーアンプ、限定1台限りの“MASTERS BA-225FB/MOSA”(8W+8W)をご購入いただいたU.S(横浜市在住)さんから、ご感想が寄せられました。
ご本人の許可をいただきましたので、掲載させていただきます。
製作者の文はともすれば思い入れが入りすぎ、客観性を欠くことがあるので、ユーザーさんからの感想をご覧になって、皆様それぞれ、ご判断材料にしてください。
と、いうことです。
製作者にとって、こんなに嬉しいことはありません。
Aクラスアンプは電源トランス、ヒートシンクが通常アンプに比べ、3倍以上かかります。
このため限定数になりますが、近々、何とか製品化したいと思うようになりました。