最近、弊社のRCAケーブル「MASTERS MS-211/5C」の注文を多くいただいております。
「エレクトロニクス的な基礎を満足した上でオーディオ的な感性を加えたRCAケーブル」として大変ご好評いただいております。
ここ20年、「オーディオ機器の使いこなしには、オーディオアクセサリーが重要な要素となる」ことが、オーディオ評論家諸氏の方々のあいだでいわれ続けてきました。それを追認するかたちで、ユーザーの方々からも効果のほどが認知され、オーディオビジネスの一角を担うものとなっております。
私は、ケーブル類にはあまり関心の高いほうではありませんが、少なくとも伝送理論に沿ったものであれば、良好なサウンドが実現できると思っております。
また、できるだけ、入手しやすい価格で提供すべきと思っております。現状ではエントリークラスのRCAピンプラグケーブルでさえ、1万円以上が相場です。
当社の「MASTERS MS-211/5C」は、アメリカ製業務用5C-2V同軸ケーブルを伝送導体として、ロスのない広帯域伝送を目指しております。
ケーブルが太いので、長さを短くして、なおかつ、曲げて使用されますとRCAピン端子にストレスがかかります。標準品の120cmの長さでは多少曲げても問題ございません。30cm以下となりますと要注意です。
それさえご注意いただければ高音質を再現できます。
費用がセーブできた分、ハードのアップグレード、ソフトの購入などに振り向けたほうが、より一層、オーディオライフを楽しめるものと思います。
MASTERS BA-225FB/MOSのバランス電源
今回は、バランスアンプに最適な電源回路についてお話します。
普通のトランジスタアンプは、グランドに対して増幅作用を持つので、電源構成は図に示すように、センタータップ整流方式の±電源です。
そうすると、交流から直流に整流するとき、交流分(リップル)とか電源からのノイズ成分は電源のグランドに必ず流れ込みます。
グランドに流れる電流波形を下図に示します。
ところが、そのグランドがスピーカーをドライブするマイナス端子になるのです。したがって、必要なオーディオシグナルとノイズ成分とが、ここで、ごっちゃになります。ある有名なオーディオブランドでは、このような汚いノイズがスピーカーになるべく流れないように、グランドに終結するアースラインの順序、プリントパターンの書き方も決めています。それでも、オーディオシグナルもノイズも同居しているのですから、このような工夫もその効果には限度があります。
一時期、、このような弊害を少しでも減らそうと、グランドから抵抗で浮かして、電源トランスのセンタータップに流れる電流を抵抗で規制した回路もありました。かつて、1980年頃、登場した山水のグランド・フローテイング回路がそのような思想を具現化したものです。
BA―225FB/MOSに採用した電源は、電源トランスの中点にリップル分が流れ込む必要がありません。プラスからマイナスへと、整流コンデンサにほとんど流れ、グランスにノイズが流れ込むことがありません。
したがって、バランスアンプの増幅の基準となっているサミングポイントのグランドは、常時クリーンな状態になっています。
リップル成分が電源トランスのグランドライン:中点に流れていないことを下図に示します。
また、バランスアンプ出力は、グランドには無縁に、スピーカーをクリーンにドライブします。スピーカーの逆電力も片方のアンプが相互に処理して、音楽に大事な低音、中低域を失わせることがありません。
音楽は低音が基本です。そのベースに中域、高域が重なって、始めて心地よい、バランスのとれた音楽が再現されます。最初から、高域の繊細さを重要視するオーディオマニアさんが日本に多いことは承知しています。しかし、まずは、バランスの取れたサウンドを追究しましょう。そうすれば、最高のサウンドに到達し、最高の趣味となりましょう。
バランス伝送方式の始まりは意外と古く、電話通信時代からおこなわれていたようです。
また、放送局の信号伝送はすべてバランス方式が一般的でした。
では、具体的にどうやったかといいますと、これは簡単で、センタータップ付きの通信用トランスでおこなえば、可能です。
昔(50年位前)から、タムラトランスは、この方面の用途で独壇場でした。モデル数は減りましたが、現在でも販売されている機種があります。
トランス方式による、バランス→ノーマル(アンバランス)、ノーマル(アンバランス)→バランス変換、は簡単です。但し、トランス自体が高価で、また、帯域がそれほど広くないので、最近はあまりはやらなくなりました。しかし、STUDERのA―730のCDプレーヤーではトランス方式によるバランス出力が付いていて、今でも、このサウンドは高い評価を受けています。
電子回路によるバランス→ノーマル(アンバランス)変換は、差動増幅回路を使えば、シンプルに、性能良く実現できますので、現在は電子バランス変換方式が一般化しています。
ところで、私は、せっかくのバランス信号をノーマルに戻して、普通のアンプで増幅するのは、かねてから、合理的でないと思っていました。
スピーカーは、極性のない動電変換機であるので、しかも、振動板が動くことによって、逆起電力(モーターの発電ブレーキに例えられる)を発生して、その成分がアンプに戻って、アンプの動作に影響を与えることは分かっていても、アンプに関わるエンジニアはアンプの負荷に抵抗を接続して、測定して、その優劣を論じるだけで、このような重要なファクターの検討は諦めているようです。そして、ヒアリングという官能の世界で頑張っているようです。
そういう私も、その部類ですが、少なくとも問題意識は持っています。
最近、逆起電力の弊害はデジタルアンプで分かってきました。デジタルアンプではアンプ出力はLCのローパスフィルターを通過するので、負荷を抵抗にしても、逆起電力がL(インダクタ)から戻ってきます。
通常のアナログアンプでも、ネットワークのLC、また、スピーカーユニット自体からの逆起電力が戻ってきます。
一方、デジタルアンプは高効率を狙うので、ここに採用されるデバイス、MOSFETは大変な低内部抵抗です。0.1Ω以下になっています(UHCMOSともいわれます)。
そうなると、逆起電力(回生電力)はMOSFETを通って、電源電圧を揺さぶります。
分かり易い例えとして、電車はブレーキをかけると、回生電力が生じて、変電所に電力を戻します。架線電圧は一時的に上昇します。これはこれで、エネルギーセーブになり、喜ぶべきことです。
しかし、アナログアンプでは、その程度は極少であるにせよ、電源電圧が上下にゆすぶられて、供給を受けているアンプの動作は非常に混乱をきたすことが推測されます。特に低域になればなるほど、その現象はひどくなります。
デジタルアンプに話を戻しますと、その現象はベース・ポンピングといわれ、有害です。
通常のアナログアンプに使用されるデバイスは、内部抵抗が大きいのでデバイス内で熱エネルギーとなってしまい、逆起電電力による揺さぶりはきちんと測定した報告がないようで、はっきりしません。けれども、測定技術が進歩されれば解明されるに違いありません。
このような問題解決には、デジタルアンプではどうしたでしょうか-
この有害現象は、ブリッジ方式にすれば解決できることが分かって、このような現象を考慮する設計者はそうしています。
ブリッジ方式とは、まさしくバランス増幅(ドライブ)方式で、互いに位相の異なった2台のアンプでスピーカーの両側(+,-)をドライブするのです。こうすると、逆起電力が生じても、反対側のアンプが吸収して、アンプ電源の混乱を生じさせないことになります。
同じように、アナログアンプでも、ここに、バランスドライブ方式アンプのメリットがあるのです。
鉄道で例えれば、客車の片側に機関車を付けて、坂を上り下りするのと、両側に機関車をつけて、そうするのとどっちが良いでしょうか?すぐ、ご理解いただけると思います。
バランスアンプを実際に聴いてみると、低域、中低域がリッチに聴こえると、多くの方が感想を述べられています。まさしく、通常のアンプではこの帯域が逆起電力によって影響を受けて、どこか貧しく聴こえるのだと推測できます。
音楽の基本は低域、中低域ですから、私はこのあたりがしっかり再生できないと、高域の質感がどうこうよりも、不満を覚えるタイプです。
しかし、現時点でも、オーディオは、組み合わせ、聴く音源、部屋等で、いろいろ変動要因があり、このような現象を理論的に立証することができないですし、リスナーの好みも千差万別です。従って、私がこのように考えるからといって、ほかの方にまで押し付けるつもりはありません。
けれども、このことは電源ケーブル、スピーカケーブル、ピンケーブルをいろいろ交換して、サウンド向上を図るより、はるかに大きな効果を得られるのだということはお分かりになられると思います。前者を小技とすれば、後者は大技です。前者が柔道の「効果!」なら、後者は「1本!」に当たります。
今回は、今回は新製品で採用している、「バランス増幅」についてご説明しました。
次回は、バランスアンプに最適な電源回路「バランス電源」について、お話ししたいと思います。